2016 Fiscal Year Research-status Report
新規オルガノイド培養法による肝芽細胞制御機構の解明
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16K21106
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
今城 正道 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (00633934)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 肝芽細胞 / 肝芽腫 / YAP / β-カテニン / オルガノイド培養法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、独自に開発した培養法を用いて、肝芽細胞の増殖と分化を制御する機構を解明するとともに、この機構の破綻が小児性肝臓癌の一種である肝芽腫の形成、進行につながる仕組みを明らかにすることを目的としている。本年度はまず、培養環境下において様々なシグナル伝達経路の活性化が、肝芽細胞にどのような影響を与えるか検討した。初めに、肝芽腫において高頻度に活性化が認められるHippoシグナル伝達経路のエフェクター分子YAPの活性化が肝芽細胞に与える影響を調べた。その結果、YAPの活性化が細胞老化を抑制すること、それにより肝芽細胞に長期増殖能を賦与することが明らかになった。注目すべきことに、YAPの活性は培養に使用するゲルの硬さによって変化し、硬いゲル中ではYAPがより強く活性化した。次に、肝芽腫において同様に高頻度に活性化しているβ-カテニンの機能を解析した。その結果、β-カテニンの恒常的活性化により、肝芽細胞のWnt非依存的な増殖が促進されることが分かった。興味深いことに、YAPとβ-カテニンの両方を活性化すると、肝芽細胞は増殖因子の非存在下でも生存し、増殖した。この増殖因子非依存性は癌細胞の一般的特徴の一つであり、肝芽腫の進行過程における細胞の性質の重要な変化を反映していると考えられる。そこで、この現象の分子機構について詳細に解析した。その結果、YAPとβ-カテニンが増殖因子の一種であるIGF-1の発現を誘導すること、それにより下流のPI3K-Akt経路やERK MAPキナーゼ経路を活性化することで、増殖因子非依存的な肝芽細胞の生存と増殖を促進することが明らかになった。今後は、in vitro培養法で解明されたこれらの分子機構が、生体内における肝芽腫の形成や進行に実際に関与するかどうか、マウスモデル等を用いて検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究計画では、培養環境下における肝芽細胞の分化誘導法を確立すること、種々のシグナル伝達経路の肝芽細胞における役割と作用機序を解明することを目標としていた。このうち分化誘導法については、胆管上皮細胞への分化誘導条件が設定できたものの、肝細胞への分化誘導法は現在のところ確立できていない。この点については、来年度も引き続き検討が必要である。一方、シグナル伝達経路の機能解析では、重要な進展が見られた。まず、肝芽腫において高頻度に活性化が見られるYAPとβ-カテニンに注目して、機能解析を行った。その結果、YAPとβ-カテニンの活性化がそれぞれ長期増殖能とWnt非依存性を肝芽細胞に賦与することが分かった。また、詳細な分子機構は不明であるが、YAPの活性が細胞周囲のマトリックスの硬さによって制御されることも分かった。YAPの活性化が肝芽細胞に長期増殖能を賦与することから、培養に使用するゲルの硬さを適切に調節してYAP活性を高く保つことで、より長期間の培養が可能になる可能性があると考えられる。この点については、来年度に検討する。これらの結果に加えて、YAPとβ-カテニンの両方が活性化すると、IGF-1の発現が誘導され、増殖因子非依存的な肝芽細胞の生存と増殖が促進されることが分かった。従って、YAPとβ-カテニンの活性化は、長期増殖能、Wnt非依存性、そして増殖因子非依存性という肝芽腫の形成、進行に重要な3つの性質を肝芽細胞に賦与すると考えられる。この成果は、来年度に実施予定のマウスを用いた肝芽腫の形成、進行過程の解析の基礎となるものであり、今後これをもとにして本研究課題を円滑に遂行することが出来ると考えている。従って、本年の研究目標の達成度は、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の得られた成果をもとに、今後はまずYAPやβ-カテニン等の活性化により、肝芽細胞が実際に腫瘍形成能を獲得するか検討する。そのために、培養環境下で遺伝子操作した肝芽細胞を免疫不全マウスの肝臓へと移植し、腫瘍が形成されるか調べる。YAPとβ-カテニンの活性化だけでは腫瘍が形成されない場合には、これに加えて肝芽腫で見られる他の変化も再現し、腫瘍が効率よく形成される条件を検討する。これにより肝芽腫の形成に必要な最小限の遺伝子変異や発現変化の組み合わせを同定することを目指す。腫瘍が形成される条件が明らかになった場合は、マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析等を行い、個々の変化がどのようにして腫瘍形成に寄与するのか明らかにする。特に平成28年度に明らかになったYAPによる長期増殖能の賦与(細胞老化の抑制)については、詳細に分子機構を解析する。また、様々な遺伝子の組み合わせにより形成された腫瘍の形態や性質を実際にヒトで見られる肝芽腫と比較することで、ヒトの病態をより忠実に再現するマウスモデルの構築を試みる。以上の研究により、肝芽腫の形成、進行をもたらす分子機構を解明するとともに、治療法の開発に有用なマウスモデルを確立することを目指して研究を遂行する予定である。
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Causes of Carryover |
今年度行った肝芽細胞の分化誘導法の検討において、胆管上皮細胞の分化誘導条件は設定できたものの、肝細胞への分化誘導条件の確立が終了しなかった。そのため、当初今年度内に行う予定であったシグナル伝達経路の分化への影響の解析を次年度に持ち越すこととし、そのための費用を次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に引き続き、肝芽細胞の肝細胞への分化誘導法を検討する。分化誘導条件が定まったのち、予定していたシグナル伝達経路の影響の解析をまとめて行う予定である。
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Research Products
(1 results)