2017 Fiscal Year Research-status Report
著作権の刑事罰・刑事手続が表現者に与える萎縮効果の研究
Project/Area Number |
16K21134
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
比良 友佳理 京都教育大学, 教育学部, 講師 (40733077)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 著作権 / 表現の自由 / 著作権法 / 憲法 / 刑事罰 / 萎縮効果 / 知的財産権 / 知的財産法 |
Outline of Annual Research Achievements |
著作権侵害の刑事罰は近年厳罰化の一途をたどり、さらにTPP交渉において非親告罪化が議論の俎上に上がるなど、取り締まり強化の傾向が続いている。特に最近は、海賊版サイトが社会的にも注目を集めるなど、著作権の規制のあり方が法学者のみならず社会全体の問題関心となっている。本研究は著作権の刑事罰や刑事手続がユーザーの表現の自由に与える萎縮効果を多角的・総合的に分析することを目的としている。本年度は、前年度に引き続き米国、欧州の著作権と表現の自由に関する裁判例の動きを調査研究するとともに、刑事罰のあり方について憲法的側面から検討を行い、以下の知見を得た。 (1)米国とフランスの著作権と表現の自由に関する判例の比較 インセンティヴ論の考え方が根強いとされる米国の連邦最高裁は、著作権を「言論の自由のエンジン」であると捉え、著作権に内在する調整原理によって、既に調整済みであるとして、著作権外在的な制限を忌避する傾向にある。それに対し伝統的に自然権論の考え方が根強いとされるフランスでは、最近の破毀院判決で、著作権と表現の自由の適切なバランスを具体的な方法で検討すべきであるという判決が相次いで下されるようになっている。このように、両国の著作権に関する哲学と表現の自由との関係は、ある種逆説的な様相を見せている。 (2)著作権に関する刑事罰と萎縮効果の関係 出版の事前差止は表現活動に対する事前規制に分類されるため、表現の自由に対する萎縮効果が大きいのに対し、刑事罰は事後規制に分類されるため、一見すると相対的には萎縮効果が小さいと一般的には考えられてきた。しかし、強制的な捜査や、特に身体的拘束を伴う刑事手続、刑事罰は、人々に強い萎縮効果を与えることが欧州において議論されていることがわかった。刑事罰の特性に着目しながら、著作権の刑事罰のあるべき姿を引き続き検討していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、欧州人権裁判所、欧州司法裁判所及びフランス国内裁判所の著作権と表現の自由の最近の判例の動きについて研究した成果を論文及びシンポジウム報告において公表することができた。さらにこれまでの研究成果を反映させた書籍を2冊出版することができた。書籍はいずれも初学者向けの教科書であるが、著作権と憲法論という本研究テーマに関わる内容について、最新の内容を盛り込み、一般向けに分かりやすく問題を提示できたと考えている。また、研究会やシンポジウムに参加し、発表することを通じて、知的財産法学者、憲法学者から多くの示唆を得ることができた。この他、いわゆる海賊版サイトのブロッキング問題についても資料収集等を進めることができた。これらで得られた知見は、本研究テーマである著作権の刑事罰と表現の自由を検討して論文としてまとめるにあたって重要な素地となるものである。 他方、刑事罰に焦点を当てた検討はまだ作業の途中であり、次年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度は、これまでの一般的な理論的研究を土台としつつ、より刑事罰の問題に焦点を絞った検討を行っていく。具体的には、刑事罰の特性や、他の犯罪類型との比較などを行った上で、刑事罰が表現行為に与える萎縮効果を整理し、最終的には論文としてまとめ公表することを目標とする。 また次年度後期からは、フランスのストラスブール大学にて在外研究を行うこととなった。この機会を活用して、特に身体的拘束を伴う刑事罰のあり方について、ヨーロッパ人権条約の議論も参照しながら、欧州の最新の議論について幅広く調査し、本研究の最終成果に反映させる予定である。
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Causes of Carryover |
旅費、物品費として使用した結果、端数が差額として生じたため。 次年度、物品費等に充てて使用する予定である。
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Research Products
(7 results)