2018 Fiscal Year Research-status Report
非漢字圏学習者の漢字語彙学習の成功に影響する要因の解明:効果的な学習支援のために
Project/Area Number |
16K21145
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大和 祐子 大阪大学, 日本語日本文化教育センター, 准教授 (80707448)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本語教育 / 漢字(語彙) / 認知処理 / 書字認知 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,前年度までの実験データから得られた結果に基づき,主に(1)非漢字圏学習者による漢字1文字の書字認知に対する語彙知識の影響,(2)日本語学習者による二字漢字語の正誤判断の認知メカニズム,(3)非漢字圏学習者の漢字学習ストラテジーの使用傾向と書字認知能力との関連について分析・考察を行った。(1)については,漢字および疑似漢字の正誤判断においては,日本語の語彙知識の影響が強く見られることが確認された。日本語の語彙知識が高い学習者は一般に日本語の漢字との接触頻度も高く,その経験が漢字の書字の正誤の判断に役になっているものと推察される。また,疑似漢字を正しくないと判断する際に誤認しやすい文字は,学習者の日本語の語彙知識の上位群も下位群も似通っていることが分かった。(2)については,本研究では日本語の学習がある程度進んだ学習者(漢字圏学習者・非漢字圏学習者)を対象に分析したが,日本語の学習がある程度進み,かつ日本語の語彙知識は同等である場合においても,漢字圏学習者は非漢字圏学習者より有意に正しく二字漢字語の正誤判断ができることが分かった。また,誤認しやすい二字漢字語の傾向も漢字圏学習者と非漢字圏学習者では大きく異なることが分かった。前年度までに本研究で実施した漢字1文字の正誤判断においては,学習者の母語の書字形態は正誤を予測する主たる要因とは言えなかったが,二字漢字語については,異なる結果が得られたことになる。(3)については,日本語の漢字学習ストラテジーを調べるSILKの結果を漢字1文字の認知処理能力で分けた上位群・下位群で比較した。その結果,下位群は上位群より多様なストラテジーを使っていること,下位群は意識的な漢字学習をしている一方で,上位群は漢字を日常でできるだけ使用するストラテジーを多用していることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
既に本研究で実施予定の実験・調査は全て終了し,その大半の結果は学会等で発表している。ただ,実験の結果の分析の過程で,非漢字圏学習者と漢字圏学習者の漢字(語彙)の誤認に関して,母語の書字形態によって大きく特徴が異なったため,その点をより詳細に分析する必要が出てきた。また,一部の研究結果については,学術論文にまとめている途中の段階であるため,「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
漢字圏学習者と漢字圏学習者の漢字(語彙)の誤認についてより詳細に分析することにより,各学習者グループの漢字認知の特徴を別の角度から分析できると考える。さらに,本研究で行った正誤判断課題では,語彙および文字の正誤判断の迅速さと正確さから認知処理を分析しようとしたが,この方法による限界も明らかになった。今後は,学習者の眼球運動の測定などを通して,より詳しく学習者の漢字の捉え方を分析していく必要がある。
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Causes of Carryover |
本年度,研究結果の報告を目的として計画した学会への出張の一部を大学での用務の都合で取り消したため,旅費がかからなかったため,余剰分が出た。次年度使用額分は,研究結果報告を目的とした学会への出張費および研究結果報告のための学術論文執筆に必要な書籍などに使用したい。
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Research Products
(8 results)