2016 Fiscal Year Research-status Report
ポスト生産主義社会における社会権-日本の就労自立支援をめぐる批判的考察
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16K21149
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
遠藤 知子 大阪大学, 人間科学研究科, 講師 (00609951)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 社会権 / 社会的シティズンシップ / 就労と福祉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は就労と福祉の関係を問い直し、ポスト生産主義社会における社会権の構想を提示することである。平成28年度の研究課題は、社会的シティズンシップおよび社会権に関する政治理論研究における市民による就労の位置付けを確認することであった。このために主に政治理論研究と社会政策研究の文献レビューを行い、それぞれの先行研究において就労が福祉制度を支える市民の社会権に対する義務として中心的な位置づけにあることを確認した。その一方で、就労と福祉の関係を問い直す先行研究の積極的論拠として、各人が自らの善の構想を追求する自由を尊重することに焦点が当てられていることが明らかになった。こうした先行研究の位置付けの中で就労と福祉を分離する上での規範的な課題としてフリーライダー問題に焦点を当てた理論研究の論文を執筆し、国内の主要な査読付き学会誌に投稿した。 さらに、当初の研究計画ではポスト生産主義社会の政策的・制度的課題を検討するために主に就労支援政策と就労支援事業に焦点を当てる予定であったが、研究を進めていく中で、現在の日本の高齢化社会に着目することで就労による社会参加の位置付けを問い直す契機を見出せるのではないかという着想に至った。このため、高齢者の就労や社会参加に関する先行研究や政府文書を渉猟し、高齢化が就労を中心とする社会権にどのような制度的変化を迫っているのかについて研究を進めている。本研究の成果は英語論文としてまとめ、平成29年度中に国際学会で報告することを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究計画では、1年目である平成28年度に政治理論研究の文献レビューを行い、2年目に理論研究の日本語論文を執筆する予定であった。しかし、平成28年度中に理論研究の先行研究を整理したうえで研究論文を執筆・学会誌に投稿することができたため理論研究はおおむね順調に進んでいる。 当初の研究計画では1年目に就労支援事業の調査に向けた情報収集を行う予定であったが、日本の社会政策における就労と福祉の関係を検討するという当初の研究課題を遂行するうえで、高齢者の就労と社会参加に焦点を当てることが有効であるという着想に至ったため新たな文献や資料を収集・検討する必要があった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画ではポスト生産主義社会の政策的・制度的課題を検討する上で日本における就労支援政策・就労支援事業に焦点を当てる予定であった。しかし、日本における超高齢化は、従来の福祉国家における就労を中心とする社会契約(市民の権利と義務)を問い直す契機となっている。よって、平成29年度以降は特に高齢化社会を背景に本研究の研究課題であるポスト生産主義社会における社会権の変容について考察していきたい。このために、政府文書や先行研究を題材としながら日本の高齢化社会に関する政策を検討した上で、高齢者の社会参加に関するケーススタディを行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では1年目にヨーロッパで開催される国際学会に参加する予定であったが、平成28年度は本研究の準備段階であったため国際学会への参加を見送った。このため、出張旅費の支出が当初の計画よりも少なく済んだために次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2年目以降、本研究の研究成果を国際学会で報告するための出張旅費として使用する予定である。
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