2017 Fiscal Year Research-status Report
ポスト生産主義社会における社会権-日本の就労自立支援をめぐる批判的考察
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16K21149
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
遠藤 知子 大阪大学, 人間科学研究科, 講師 (00609951)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 就労 / 福祉 / 社会参加 / 地位活動 / 高齢者 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、本研究第1年目に行った理論研究をまとめた論文が発表された。本研究ではこれまで人々の就労による生産的貢献が福祉制度の前提となっていることを確認し、「搾取」の概念を分析することで就労と福祉を分離することの正当性について考察を行った。 1年目は現在の高齢社会に着目することで、就労による社会参加の位置付けを問い直すことができるのではないかという着想に至った。そこで、2年目である平成29年度は、地域における高齢者の相互扶助活動に関するインタビュー調査を実施し、高齢者の地域活動の意味について、就労との関係で分析を行った。これを英語論文としてまとめ、国際学会で口頭発表を行い、国際学術雑誌に投稿した。本研究の目的は、高齢者の地域活動が共通の福祉ニーズを満たすための地域資源として期待される政策的文脈において、高齢者自身がそうした活動をどのように意味づけているのかを明らかにすることであった。ハンナ・アレント(1958/1973)による「労働」、「仕事」、「活動」を理論枠組みとして用い、調査協力者にとって地域活動が共通のニーズを満たす「労働」としての側面を持ちつつも、新たな関係性や「共通世界としての公的領域」を相互に形成する「活動」として捉えられていることを明らかにした。本研究では、「稼働年齢」を超えているとされる高齢者の地域活動に注目することで、1)今後の高齢社会における就労以外の活動の意義を示し、2)アレントの3分類を用いることで、同じ地域活動や就労であっても、それぞれが持ちうる異なる意味と効果を読み解く必要があることを明らかにした。本研究課題との関係では、就労とそれ以外の活動を理論的に整理し、就労以外の社会的協働の在り方について考察する上で有効であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は当初の計画通り、社会権における就労の位置付けに関する理論研究の論文が発表され理論研究はおおむね順調に進んでいる。 当初の研究計画では2年目に生活困窮者の就労支援に関する調査を行う予定であったが、人口高齢化がこれまでの就労と福祉の関係にどのように影響するのかを検討することによって、就労以外の社会的協働の在り方を考察するという本研究の研究課題をよりよく遂行することができるという着想に至った。このため、2年目は主に高齢者にとっての社会参加の意味を就労との関係で分析する実証研究を行った。2年目の研究は英語論文としてまとめ、国際学術雑誌に投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は2年目の研究を発展させ、高齢の生活困窮者をめぐる政策研究と就労支援の取組に関する調査を実施する予定である。具体的には、高齢者の雇用促進と「生涯現役社会」が推進される文脈において、現在の政策が高齢の生活困窮者をどのように位置付けているのかについて政策文書などの分析を行う。この研究は、2018年7月にイギリス、ブリストル大学で行われるEast Asian Social Policy Annual Conferenceで報告することが決定している。さらに、高齢の生活困窮者の状況と地域の就労支援事業の取組に関する聞き取り調査を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
<理由> 当初の研究計画では1年目と2年目に国際学会に参加するための海外出張旅費を計上したが、1年目は本研究の準備段階であったため、国際学会への参加を見送ったため次年次使用額が発生した。2年目は、報告を行った国際学会の2017年度年次大会の開催地が国内であったため当初の計画よりも出張旅費が少なく済んだ。 <使用計画> 2018年度にイギリスで開催される国際学会での報告を含め、3年目以降の研究成果報告のための出張旅費として使用する。
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