2017 Fiscal Year Research-status Report
市場機構と社会的選好:フィールドにおける内生的社会的選好の検証
Project/Area Number |
16K21162
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
伊藤 高弘 神戸大学, 国際協力研究科, 准教授 (20547054)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 社会的選好 / 社会関係資本 / 利他性 / 互恵性 / フィールド実験 / 市場の浸透度 / 南アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、昨年度ネパールにおいて実施した経済実験データのクリーニング、またデータを用いた予備的分析を行った。データのクリーニングについてはほぼ完了し、現在鋭意分析を進めている段階である。分析の中身について、より具体的には、電気・水道などの基本的インフラが未整備な生活限界集落における、①村落内・村落外の人間関係と利他性および互恵性の形成について、②市場経済の浸透度と人々の利他性および互恵性との関係について、それぞれ予備的分析を行った。
①に関して、理論的には、利他性や互恵性は、村落外の人間との関係においてよりも、村落内の人間との関係において、より強固に形成されることが予想される。市場が未発達な地域においては、インフォーマルな村人同士の相互保険の重要性が相対的に高いためである。しかしながら、暫定的な分析結果は、実験によって抽出された村人の利他性と互恵性に、匿名の相手の居住地(村落内か村落外か)が影響を及ぼしていないことが示された。また、②についても、現時点においては残念ながら理論的に予測される、すなわち市場の浸透度が高くなるほど、村落内の利他性や互恵性が毀損されるという結果を得られていない。以上の2つの暫定的な結果について、サンプルの問題(全ての変数についてクリーニングが完全に終了した6割程度のサンプルで行っている)であるのか、あるいは変数に誤りがあるのか、今後慎重に吟味して行く予定である。
同時に、スリランカにおいても、内戦を通じた社会的選好の形成に関する研究を進めるべく、別の科研(研究課題/領域番号16KT0043「スリランカにおける紛争後の社会再建と貧困削減」)と共同で、昨年11月にスリランカ東部において事前調査を実施し、現在ベースライン調査を実施中である。来年度以降の経済実験に向けて準備中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ネパール・データのクリーニング作業に予想以上の時間が掛かっていることが、研究の進捗がやや遅れていることの主な理由である。また、【研究実績の概要】にて説明したように、予備的分析の暫定的な推計結果が、当初の理論的予測から隔たっており、本研究の最終的な目標である論文執筆、研究の発表にまで辿り着けるか、見通しが悪くなっていることも一因である。
|
Strategy for Future Research Activity |
全ての家計についてデータ・クリーニングが完了しつつあるので、①村落内・村落外の人間関係と利他性および互恵性の形成について、②市場経済の浸透度と人々の利他性および互恵性との関係について、全サンプルを用いてそれぞれ分析を進める。
また、山岳地帯における約3000世帯の実験データはそれ自体非常にユニークであるので、上記①、②の分析が上手く行かなかった場合は、当初のテーマからずれることになったとしても、焦点を少し変えて研究を進める予定である。(これについては、データをじっくりと眺めて、仮説を導く必要があり、現時点で代替テーマについての具体的なアイデアは残念ながらない。)
|
Causes of Carryover |
他の科研費や外部予算を用いてネパールでの家計調査の費用をまかなったため、人件費・謝金に大幅な余裕が出た。そのため、スリランカにおける追加的な調査研究の実施を準備するために現地出張に数度行ったが、それでも余剰が出ることになった。
2018年度は、主に研究結果の報告のための海外出張(ネパールとスリランカ)費用に当てる予定であり、余剰分は解消される見込みである。
|