2016 Fiscal Year Research-status Report
水和構造を介した界面張力制御による炭酸カルシウム結晶の多形選別機構の解明
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16K21164
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
荒木 優希 京都大学, 工学研究科, 特定研究員 (50734480)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 炭酸カルシウム / カルサイト / アラゴナイト / バイオミネラリゼーション / 水和構造 / 周波数変調型原子間力顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,固液界面に形成される水和構造が炭酸カルシウム結晶の多形形成に与える影響を明らかにすることを目的とする.今年度は,周波数変調型原子間力顕微鏡(FM-AFM)による水和構造観察を中心に行った.具体的には,マグネシウム(Mg2+)の有無によるカルサイト表面近傍の水和構造の3次元的変化を明らかにすることを目的とした.観察は,塩化カルシウム(CaCl2)および塩化マグネシウム(MgCl2)溶液中で行い,両者を①水和層数,②各水和層の面内構造,③各層の水の3次元的な積層構造の観点で比較した.両溶液中でカルサイト表面近傍における明瞭な水和イメージを得ることに成功した. ①水和層数:CaCl2溶液中で計4層,MgCl2溶液中で計5層の水和層が観察され,水和層数の増大が確認された. ②面内構造:カルサイト表面に最近接の第一水和層に顕著な違いが見られた.CaCl2溶液中では水がカルサイト表面の酸素原子の配列に倣ってジグザグに配置しているのに対し,MgCl2溶液中ではCa原子の配列に倣った長方形の格子状パターンを形成していた. ③各層の3次元的な積層構造:第一,第二水和層の重なり合いを解析したところ,MgCl2溶液中の方がより密な水和構造を形成していることがわかった. 従来説では,カルサイトの表面に一部置換したMg2+によって局所的に水和構造が変化すると推測されていた.しかし,本研究では,3次元的な水和構造観察が成功したことでMg2+の存在下でダイナミックに水和構造が変化することが初めて明らかとなった.今回の結果は,カルサイト表面に置換したMg2+ではなく,界面近傍に存在する溶液中のMg2+が水和構造の変化に寄与することを強く示唆している.現状ではFM-AFMは水和の3次元構造を可視化できる唯一の手法であるため,この手法により水和構造変化を実証できたことは意義深い.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画当初の予定とは実施内容が前後したが,炭酸カルシウム結晶の多形選別のキーマテリアルであるMg2+の効果にフォーカスして検証実験を行い,固液界面における水の3次元的分布の変化を明らかにすることに成功した.今回得られた3次元の水和構造変化は,計画当初には予想していなかった情報であり,この点から本研究は当初の予想よりも順調に進んでいると言える.今年度の実施結果から,その他の添加物(有機分子)が入った系でも水和構造の3次元計測が可能であるという確証を得たため,次年度以降も水和構造に関して新たな情報が得られると期待している.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度に実施する内容は以下の通りである. ①有機分子によるカルサイト表面近傍の水和構造変化の3次元的評価 ②FM-AFMによる表面観察での核形成率の定性的評価 ③各系におけるコロイドプローブによる表面力計測 29年度は,①水和構造に計測に加え,表面力の定量的評価と核形成率の定性的評価を中心に行う.①は28年度に実施した方法を踏襲し,Mg2+に引き続いて有機分子(合成ポリペプチド)による水和構造変化を明らかにする.②では,Mg2+や合成ポリペプチドを加えた際の核形成率の変化をカルサイト結晶表面の観察から定性的に明らかにする.③は,①の計測時に探針のみをコロイドプローブ(ポリスチレン球)に変えて実施する.各系で表面力計測を行い,水和構造の変化に応じて表面力にどのような違いが現れるか定量的に評価する.これらの検証実験を通して,「水和-界面張力-多形」のうち水和と界面張力の相関の実証を目指す.
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Causes of Carryover |
当初,初年度に計画していた合成ポリペプチドを用いた実験を2年目に変更したため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2年目は合成ポリペプチドを用いた実験を中心に行うため,初年度からの繰越分はペプチド合成費に充てる.
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