2017 Fiscal Year Research-status Report
Grb14のインスリンシグナル抑制を制御するリン酸化状態の解明と関連因子の探索
Project/Area Number |
16K21226
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
平 順一 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 助教 (20549612)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | Grb14 / インスリン抵抗性 / インスリン受容体 / リン酸化 / プロテインホスファターゼ1 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、インスリンの刺激に応答してインスリン受容体の細胞内ドメインと直接的に相互作用し、受容体の活性化を抑制することが知られているgrowth factor receptor-binding protein 14(以下、Grb14)のリン酸化が、上記の複合体形成に与える影響を検討している。Grb14はBPSドメインと呼ばれる領域を介してインスリン受容体と結合することが知られており、平成28年度はBPSドメイン内部のセリン残基クラスター中の複数のセリン残基がGSK-3によってリン酸化され、インスリン受容体との複合体形成を抑制することが示唆された。 平成29年度は、計画申請段階より予定していた①「Grb14のインスリンシグナリング調節に関わる脱リン酸化因子の探索」に加え、昨年度の実施状況報告書に記載した②「Grb14に結合する新規タンパク質の酵母ツーハイブリッドによる探索」を行った。①の検討について、Grb14は、インスリンシグナリング下でグリコーゲン合成に関わるグリコーゲン合成酵素の調節機構と同様のメカニズムにより調節を受けると考えられた。すなわち、Grb14のGSK-3によるリン酸化はプロテインホスファターゼ1(PP1)により脱リン酸化を受けると考えられた。リン酸化ペプチド、および各種ホスファターゼの選択的阻害剤を用いた検討から、PP1がGSK-3によるGrb14のリン酸化をキャンセルすることが示唆された。②の検討について、Grb14結合性タンパク質を、ヒトnormalized cDNAライブラリおよびヒト肝臓cDNAライブラリ中より、酵母ツーハイブリッド法にて探索したところ、いずれにおいてもポジティブクローンが得られたが、その中にはGrb14の機能調節に関わると期待できる受容体やキナーゼ・ホスファターゼは含まれていなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要にて示したように、本年度は本研究計画の申請時、2年目の検討項目として予定していた「Grb14のインスリンシグナリング調節に関わる脱リン酸化因子の探索」を行った。GSK-3のインスリンシグナリングにおける最もよく知られた機能として、グリコーゲン合成酵素のリン酸化によるグリコーゲン合成の抑制が挙げられる。このリン酸化はPP1により脱リン酸化をうけ、グリコーゲン合成酵素は活性化する。インスリン受容体とGrb14の結合の主体であるGrb14のBPSドメインの内部には、グリコーゲン合成酵素の活性調節領域と配列が酷似したリン酸化モチーフが認められる。実際、これらの中のセリン残基はGSK-3によるリン酸化を受け、インスリン受容体との結合が抑制されることをこれまでに明らかとした。Grb14とグリコーゲン合成酵素が同様の活性調節機構を共有しているという仮説に基づけば、Grb14のBPSドメインのGSK-3によるリン酸化はPP1により脱リン酸化を受けると考えられた。そこで、リン酸化ペプチドおよび各種ホスファターゼの選択的阻害剤を用いたペプチドレベルでの検討を行ったところ、HepG2細胞内に上記のリン酸化部位の脱リン酸化を行う酵素が含まれており、その酵素はPP1であることが示唆された。 本年度は上記に加え、「Grb14に結合する新規タンパク質の酵母ツーハイブリッドによる探索」を行った。ヒトnormalized cDNAライブラリおよびヒト肝臓cDNAライブラリを対象にGrb14結合タンパク質のスクリーニングを行ったところ、いずれにおいても数十から百数十個のポジティブクローンが得られたが、分析の結果、これらは酵母ツーハイブリッドの偽陽性として知られる遺伝子や転写因子等であり、Grb14の機能調節に関わると期待できる受容体やキナーゼ・ホスファターゼは含まれていなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の申請時、平成30年度には「Grb14のインスリン受容体へのリクルートの薬理学的コントロールの検討」を計画していた。しかし、平成29年12月に、Grb14のBPSドメインとインスリン受容体の複合体の結晶構造をもとにしたin silicoでのドラッグスクリーニングにより、Grb14とインスリン受容体の結合を抑制する薬剤の探索に成功したという論文がフランスのグループにより発表された(A. Gondoin et al., Sci. Rep. 7, 16901 (2017))。報告書作成者は本年度、同一機関内の研究者とともに計算化学により酵素阻害剤を効率的に探索した論文を2報発表した(J. Taira et al., Int. J. Mycobacteriol. 6, 142 (2017) および J. Taira et al., J. Antibio. 70, 1057 (2017))。そこで最終年度である平成30年度は、さらに高性能なGrb14とインスリン受容体の結合阻害剤の探索とその機能評価をおこなうこととした。なお、この計画の修正は、当初の予定していたGrb14とインスリン受容体の結合のコントロールという方向性の上では一致しており、計画変更というよりは、創薬を見据えた研究計画の高度化と位置付けられる。Grb14はインスリン受容体の活性に対して負の制御をかける因子であることはすでに明らかとなっており、これを抑制する薬剤はインスリンの効果を持続・増強させると考えられ、大きな波及効果が期待できる。
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Causes of Carryover |
当初、平成30年度はGrb14とインスリン受容体の結合の薬理学的コントロールに関する研究を予定していたが、前項で記載した通り、平成29年12月に、Grb14とインスリン受容体の結合を抑制できる薬剤開発に関する論文が国外の研究グループにより発表された。これを受け、報告されたものよりもさらに高性能な(より低濃度で作用する)Grb14とインスリン受容体の結合阻害剤の探索と機能評価をおこなうこととし、平成29年度予算の一部を、以下の使用計画に基づき平成30年度の予算とした。 使用計画として、スクリーニングによって特定された化合物(単価1万円程度(ChemBridge社製)のものが数十種程度になると想定される)の購入に充当する必要が生じると想定される。また、得られるシード化合物による生物活性評価のために、複数の抗体等を購入する必要性が生じると想定される。
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Research Products
(20 results)