2016 Fiscal Year Research-status Report
AhRを介したアレルギー増悪に関わる多環芳香族物化合物の探索とその作用機序の追跡
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16K21278
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
三崎 健太郎 静岡県立大学, 看護学部, 助教 (40468591)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 多環芳香族化合物 / 抗原併用曝露 / サイトカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ディーゼル排気微粒子(DEP)や黄砂のような大気環境物質のアレルギー増悪作用に対して、それに大きく影響する多環芳香族化合物類と責任構造式の探索を行い、またそれらに対して強く応答するシグナルや細胞等の追跡によって、作用機序を解明することを目指している。当該年度は多環芳香族化合物と抗原との共曝露影響に注目して、ヒト肺胞上皮(A549)細胞において、各種抗原(LPS、ダニ、カビ)によって誘導される、炎症性サイトカイン(IL-8)のタンパク質産生を増強させる化合物をスクリーニングして、その増強活性に対して考察を行った。ダニ抗原(10 μg/mL)曝露においてはcontrol曝露に対して顕著なIL-8産生が確認された。また細胞毒性が認められなかった濃度の多環芳香族化合物と抗原を共曝露した際に、抗原のみの曝露と比較してフェナレノン(PhO)、ベンゾピレノン(BPO)、1-ニトロピレン(1-NPy)に対しIL-8産生の有意な減少が認められ、無水ナフタル酸(NA)では産生の増加傾向がみられた。一方、多くの多環芳香族化合物を単独で24時間曝露した際もcontrolに対してIL-8産生が減少し、NAでは増加する傾向がみられたため、抗原同時曝露による相乗的効果は認められなかった。無水酸は炎症を引き起こす物質として知られているため、相加的に炎症性サイトカインであるIL-8を誘導させた可能性が考えられる。またIL-8を減少させる物質はNF-κBの経路を阻害した可能性があげられる。その他の各種サイトカイン等の誘導性についても測定して、芳香族炭化水素レセプター(AhR)活性や抗酸化応答、NF-κB等の各種シグナル伝達との関連性を評価しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
十数種類の代表的な多環芳香族化合物類(PAHs やoxy-PAHs、nitro-PAHs)を対象として、ヒト肺胞上皮(A549)細胞における炎症性サイトカインの変動についてタンパク質レベルで評価を行った。対象とする物質の選定についてはこれまでの検討によってすでに行っており、AhR活性や抗酸化応答、NF-κBとの関連性も十分に予想される化合物群を対象とした。タンパク質の測定と当時にmRNAレベルでのシグナル応答の測定も開始しているところである。引き続き、曝露時間、抗原や曝露物質の濃度などを変えて、より顕著に抗原応答増強活性を示す条件を検討していく。また、その他の各種サイトカイン、ケモカインの誘導性についてもIL-4、IL-5、IL-6、IL-13、ICAM-1などを評価の対象として選び、順次、測定を進めているところである。これまでに上皮細胞を対象とした誘導パターンの評価に着手しているが、その次の段階として、特にAhR との関連が指摘されているT 細胞(Th17、Treg 細胞等)を対象とした実験に適用していく予定である。 また分画試料の評価については、自動車粉塵や大気浮遊粒子などの大気試料は入手し、さらに抽出系の準備を進めているところであり、これから各種誘導パターンの評価につなげていく。
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Strategy for Future Research Activity |
各細胞の増殖や、T細胞の分化能、各細胞におけるサイトカイン、表面マーカー、転写因子の遺伝子やタンパク質レベルの発現変化をRT-PCRやELISA、フローサイトメトリー等による評価を進めていくが、特にフローサイトメトリーなどは他の設置機関で測定をすることを予定している。またシグナル経路として、AhR活性、抗酸化応答等との関連性を、各シグナル伝達の阻害剤との共曝露による発現変化によって評価する。免疫応答の高い多環芳香族化合物に加えて、CYP阻害能の高い多環芳香族化合物を共曝露させることよって、免疫応答がどの程度、影響するのかについてもさらに評価を進めていく。また、より相乗的あるいは顕著な誘導増加を示す条件を得るために、多環芳香族化合物と粒子状物質(カーボンナノ粒子、シリカゲル、二酸化チタンなど)の同時曝露による影響の評価も検討していく。 大気試料抽出物については、高いアレルギー活性を示す分画や化合物に対して、AhR活性や抗酸化応答などの各種シグナル伝達との関連性を、単独曝露あるいは阻害剤との共曝露時における遺伝子発現パターンの変化などを調べることによって評価を実施する。 in vitro系の実験により力点をおくが、その結果、特に強く活性が見出された画分や強活性化合物についてはin vivo系での検証を行う。具体的には成体マウスに対して抗原と多環芳香族化合物類の共曝露により気管内投与した場合に、気管支肺胞洗浄液肺において誘導される血球系細胞の数や種類、サイトカイン、ケモカイン、抗体産生、各種遺伝子発現等をフローサイトメトリーや細胞染色、ELISA等によって測定する。
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Causes of Carryover |
より詳細かつ簡便で迅速に各種mRNAシグナル誘導を定量的に評価するために、高性能のリアルタイムRT-PCRを平成28年度の後半から賃貸している。平成29年度はより本格的に当該機器を用いた解析を実施するために、28年度の残額と合わせて使用することを予定している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
アレルギー増悪効果を示す多環芳香族化合物の探索とその活性機構解明を目指して、in vitro 系での免疫応答に対する影響を、免疫系に関連する細胞(現在までにヒト肺上皮細胞を取り扱っているが、さらにAhRとの関連が強く示唆されるT細胞)に対して、これまでに選定したAhR活性物質や抗酸化応答物質を曝露した際の各細胞の増殖や、分化能、抗原提示能、サイトカイン、表面マーカー、転写因子の遺伝子やタンパク質の発現変化をRT-PCRやELISA、フローサイトメトリー等を用いて測定することで評価する。各誘導パターンとシグナル伝達経路との関連性の評価、また物質同士の共暴露における影響、多環芳香族化合物と粒子状物質の同時曝露による影響の詳細を明らかにしていく上において、集中して研究費を使用する。そして、in vitro系における十分な知見を基にして、マウスなど実際の生体における作用機序への適用を進めていく。
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