2016 Fiscal Year Research-status Report
細胞間伝播性alpha-Synuclein構造体の同定とその産生機構の解析
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16K21283
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
田口 勝敏 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60462701)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | α-Synuclein / Parkinson's disease / Lewy bodies / Seed / Cell-cell transmission |
Outline of Annual Research Achievements |
α-Synucleinはパーキンソン病に特徴的な細胞内凝集体“レビー小体”の主要構成タンパク質であり、遺伝子の変異あるいは重複が家族性パーキンソン病の発症を引き起こすことから、その発症に関わる重要な責任分子の一つであると考えられている。レビー小体の形成はパーキンソン病の進行に伴って中脳黒質から大脳皮質へ上向性に伝播・拡大する。近年、神経細胞に障害を引き起こす過程において、α-Synucleinが高分子化した重合核“Seed”が細胞間を伝播し、近傍の細胞内へ取り込まれることが重要であるとの報告が相次いだ。これは“細胞間伝播仮説”と呼ばれ、脳内で病変が伝播する分子メカニズムとして注目されている。α-Synucleinは重合する過程において様々な形態を取り得ることは既に知られているが、実際に細胞間伝播を担うSeed分子の構造がどのようなものか、そしてその分子はどのようにして産生されるのか、現在も不明な点が多く残されている。 本研究では、線維様α-Synuclein分子を出発材料として生化学分画を行い、得られた各画分に含まれる高分子化α-Synuclein分子の性質について解析を行った。線維様α-Synuclein分子から多様な分子種が得られると共に、これらの構造体がレビー小体様細胞内凝集の形成を誘導できることを明らかにした。更に、海馬初代培養神経細胞を用いて病態モデル神経を作出し、この病態神経から得られる高分子化α-Synucleinを分離することができた。この分子は複数の特徴的な性質を有しており、現在、細胞毒性と共にその産生メカニズムについての解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、線維様α-Synucleinあるいは病態モデル神経が産生する様々な高分子化α-Synuclein構造体に着目し、その生化学的特性を明らかにすると共に、どのような構造の分子が細胞間伝播を担う“Seed”として機能しているのか、明らかにすることを主眼としている。現在までに病態神経から特徴的な性質を有する高分子化α-Synucleinを分離することができており、本研究が着目すべき分子構造の候補を見出すことができた。また、この構造体は神経細胞を介して産生されるものであり、線維様α-Synuclein単独構造から派生する分子ではないと考えている。神経細胞によるプロセッシングが必要であると推察しており、このことは本研究が目指すSeed産生機構の解明を進める上で非常に重要であるといえる。今後はこの候補分子の生化学的性質を解析すると共に、Seedとして細胞間伝播に機能すること、更にその産生メカニズムの詳細について明らかにすることを中心に研究を遂行しようと考えている。 尚、本研究を遂行する過程で、野生型マウス嗅球においてα-Synucleinを高発現する傍糸球体細胞が存在しており、神経細胞として幼若な性質を有していることを示す知見を得ることができた。嗅球はパーキンソン病の最初期に障害を受ける部位として知られており、本結果はその発症への関与のみならず、α-Synucleinの生理的機能の解明にも繋がることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
病態モデル神経から得られる高分子化α-Synucleinの解析を進める。また、その産生には神経細胞及び内在性α-Synucleinの存在が必須であると推察しており、α-Synucleinノックアウトマウスを用いながら、そのSeed能の評価と産生メカニズムについての解析を実施する。 細胞間伝播メカニズムを解析する過程において、細胞のどこから、どのようにしてSeedが取り込まれるのかを明らかにすることは重要である。細胞内取り込み過程の可視化は蛍光標識した高分子化α-Synucleinを含む培地で海馬初代培養神経細胞を培養し、その培養過程を経時的に観察する。更に、注目している高分子化α-SynucleinがSeedとして機能していることを明らかにするために、Seedに対する構造特異的モノクローナル抗体を作製し、細胞内取り込みの阻害活性を評価できるシステムの構築を目指す。構造特異抗体の作製は得られた高分子化α-Synucleinを抗原として用いる。得られたハイブリドーマの中から、dot blot assay とELISA によって単量体や線維様構造には反応せず、標的の分子構造にのみ反応する抗体をスクリーニングする。構造特異抗体が存在する培養条件下において、Seedの神経細胞内への取り込みを阻害することができるか、凝集体の形成効率に着目して評価を行う。
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Causes of Carryover |
実験器具(細胞培養に使用する消耗品)の購入を予定していたが、年度末に進めていた実験(条件の検討等)に時間を要したため、当該器具の購入を次年度に変更した。そのため、今年度の使用見込額との間に差が生じてしまった(11,738円)。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験計画を遂行するに当たり、前年度に購入する予定であった実験器具は今年度も必要不可欠であるため、生じた差額分は消耗品購入費用として使用する。
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