2017 Fiscal Year Research-status Report
海産バイオマス由来のメタン発酵残渣のカスケード的利用に向けた試み
Project/Area Number |
16K21286
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
黒田 桂菜 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 助教 (70708023)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 海産バイオマス / メタン発酵残渣 / 栄養塩の偏在 / 海洋肥沃化 / 発酵促進 |
Outline of Annual Research Achievements |
人間活動が盛んな都市部が隣接する大阪湾では,過栄養状態に起因する海産バイオマスの爆発的な増殖が発生し,海域環境・生態系に深刻なダメージを与えている。これは北東部における慢性的な過栄養状態が続いていることに起因する。一方,南部や西部ではノリの色落ちが生じるなど貧栄養状態となり,いわゆる「栄養塩の偏在」が生じており,栄養塩の適切な管理に対する社会的要請は高まっている。本研究は,海産バイオマス由来のメタン発酵残渣には,窒素やリンなどの栄養塩の他に,鉄などの微量金属が豊富に含まれていることに着目し,メタン発酵残渣の貧栄養海域における海洋肥沃化効果を明らかにするとともに,微量金属を含むメタン発酵残渣の循環利用によるメタン発酵促進剤としての有効性を検証することを目的とする。
平成29年度は,メタン発酵残渣を用いたノリの培養実験及び鉄添加によるメタン発酵促進効果の検証を行った。ノリの培養実験を通して次の2点が明らかになった。発酵残渣を添加した海水で培養したノリは,残渣無しの海水に比べ栄養塩吸収速度が窒素・リン共に優れていることがわかった。さらに,色落ちしたノリの色調の回復についても,残渣無しの海水に比べ色調の回復が顕著であった。栄養塩吸収速度については,発酵残渣に含まれる窒素がアンモニア態窒素であること,色調に関しては窒素源以外に微量金属類も作用している可能性が示唆された。次に,鉄添加によるメタン発酵促進効果について,鉄の発酵促進への寄与を炭素変換効率という指標を用いて定量的に確認した。また,バイオマスの種類によって促進されるガス(メタン,二酸化炭素)が異なるという新たな知見を得ることができた。さらに,当初の計画に入れていなかった細菌類の同定を行った。これにより海産バイオマスのメタン発酵過程に寄与する細菌類が明らかになり,促進効果に寄与する細菌類の同定に発展できる成果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度はノリの培養実験を通して,発酵残渣の優位性が生長速度および色調から明らかになった。さらに,鉄添加の促進効果についても定量的に明らかになるとともに,鉄添加の促進効果とバイオマスの関係についても興味深い知見が得られた。さらに,細菌類の同定を通して,メタン発酵促進のメタン発酵過程の細菌面からの考察が可能となり,各発酵過程に寄与する主な細菌類が明らかになった。これにより,当初の計画にはなかった発酵促進に関する生物学的なアプローチが加わり,多面的な検証が可能となった。また,環境面・経済面の実現可能性評価の予備調査として,データ収集・現地調査等を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は,平成29年度で明らかになった発酵残渣の優位性について繰り返し実験を行い,発酵残渣の海洋肥沃化効果について考察を進める。さらに,メタン発酵促進過程について,連続発酵実験を通してバイオマスの成分と促進効果との関連を詳しく調べるとともに,細菌面からの考察も行う。また,平成29年度で行った実現可能性評価の予備調査と実験的知見をまとめ,具体的な実社会への効果を明らかにする。
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Causes of Carryover |
旅費に関して,欧米圏の学会発表を計画していたが,アジア圏での発表を行ったため,差額が生じた。また,実験補助員を雇用しなかったため,差額が生じた。
平成30年度は,ノリ培養実験のサンプル数を増やすための実験機器類と連続発酵実験に必要な備品類を重点的に購入するとともに,実験補助員を活用し実験効率を上げていく。また,研究成果の発表を積極的に行う。
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