2017 Fiscal Year Research-status Report
ナノコーティング技術により生体親和性および骨形成能を向上した人工靭帯の開発
Project/Area Number |
16K21291
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
稲垣 有佐 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (60707529)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナノコーティング / 人工靭帯 / 骨形成能 / ストロンチウム / ケイ素 |
Outline of Annual Research Achievements |
膝前十字靱帯損傷は最も頻度の高いスポーツ外傷のひとつであり、ポリエチレンテレフタレート繊維人工靭帯を用いた再建術が行われている。靭帯再建術においては移植材料と骨孔との早期固着が必要であり、整形外科・スポーツ医学分野において重要な課題である。人工靭帯そのものには骨伝導能、骨形成能はなく、人工関節のようにハイドロキシアパタイトなど材料表面の修飾によって骨親和性を高めることが求められている。しかし、これまでポリエチレンテレフタレートのような耐熱性の低い材料へのコーティングは困難であった。さらに人工靭帯など複雑な形状をした材料へは表面への薄く均一なコーティングが求められる。 骨細胞外基質の主要構成成分であるハイドロキシアパタイトは、カルシウムとリン酸で構成され、カルシウムをストロンチウムに置換、リン酸イオンを炭酸イオンやケイ酸イオンに置換することが可能である。これまでストロンロンチウムやケイ素は骨形成促進および骨吸収抑制作用を持つことが報告されている。 本研究ではこれらのアパタイト構成成分をポリエチレンテレフタレート繊維人工靭帯上にナノ粒子コーティングすることにより、骨形成能が向上できるか、検討中である。現在ラット大腿骨より採取した骨髄間葉系細胞を用いた細胞培養実験により、特にケイ酸ストロンチウムをナノコーティングしたポリエチレンテレフタレートフィルム上で良好な骨形成能が示された。ラット同系への移植実験では異物反応を認めたため、コーティングのバインダーをポリメタクリル酸メチルからポリ乳酸へ変更のうえ、同様の培養実験を行ったところ、骨形成能が得られた。同結果を得て、同系移植実験、家兎を用いた力学試験を実施中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前年度のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた実験結果をうけ、ナノ粒コーティング対象をポリエチレンテレフタレート人工靭帯として以下実験を施行した。各種アパタイト粉末をナノ粒子化し、ポリエチレンテレフタレート人工靭帯上にハイドロキシアパタイト、ケイ酸ストロンチウムアパタイトコーティングを行った。また前年度の同系ラット移植実験の結果より、バインダーを異物反応の可能性のあるポリメタクリル酸メチルからポリ乳酸に変更した。走査型電子顕微鏡による観察では、各サンプルとも均一にコーティングされていた。 次に細胞培養実験にて、ラット大腿骨より骨髄を採取し、初期培養で培養皿に付着・増殖した細胞を骨髄間葉系細胞として用いた。細胞培養皿上に静置した、ハイドロキシアパタイト、ケイ酸ストロンチウムアパタイトでナノ粒子コーティングしたポリエチレンテレフタレート人工靭帯上に細胞を播種し、骨形成培地にて培養した。8、10、12、14日目培養上清のカルシウム濃度を測定したところ、ハイドロキシアパタイト、ケイ酸ストロンチウムアパタイトをナノ粒子コーティングした群で、コントロールのコーティングなし人工靭帯群に比して、有意に低下がみられ、骨細胞外基質の合成が示唆された。また14日間培養終了後の細胞より、遺伝子発現評価のため、mRNA(メッセンジャーリボ核酸)を抽出し、qPCR(定量的ポリメラーゼ連鎖反応)により骨形成の指標であるアルカリフォスファターゼ、オステオカルシン、Ⅰ型コラーゲン遺伝子発現量を評価したところ、ケイ酸ストロンチウムアパタイト群が有意に高値となっていた。以上よりコーティングのバインダー変更により細胞培養実験では良好な結果が得られているが、進捗状況は遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
各種アパタイトのナノ粒子化およびそのコーティング、さらにそれらを用いた細胞培養系での実験は当初の予定通り進み、特にケイ酸ストロンチウムアパタイトの骨形成に対する有効性が示唆された。その結果より同系ラット移植実験に進んだところ、バインダーに用いたポリメタクリル酸メチルが原因と考えられる異物巨細胞を中心とした炎症反応を認め、バインダーの再検討を要した。ポリメタクリル酸メチルは人工関節手術時の骨セメントにも使用される生体材料ではあるが、時に異物反応を惹起することがある。また骨髄間葉系細胞のみの細胞培養実験と異なり生体への移植では、他の免疫担当細胞の存在もあり、より複雑な反応が考えられる。この問題に対して、ポリメタクリル酸の代わりにポリ乳酸をバインダーとして使用のうえ、ラット骨髄間葉系細胞を用いて、細胞培養実験を施行し、上記の通り良好な結果が得られた。当初の予定通り、同系ラットへの移植実験、最終課題である家兎を用いた生体力学的および画像解析実験を実施中である。
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Causes of Carryover |
(理由) ナノ粒子をポリエチレンテレフタレート人工靭帯へコーティングする際のバインダーを当初のポリメタクリル酸メチルからポリ乳酸に変更したため、実験計画の遅れが生じた。 (使用計画) バインダーをポリ乳酸へ変更しラット骨髄間葉系細胞培養実験にて良好な骨形成能を得た。研究延長を申請のうえ、同系ラット移植実験、家兎実験を実施中であり予算を要する。
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Research Products
(1 results)