2016 Fiscal Year Research-status Report
スルホン酸エステルを母核とした刺激応答性リンカーの開発とプロドラッグへの応用
Project/Area Number |
16K21362
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
花屋 賢悟 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (50637262)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | スルホン酸エステル / 刺激応答性リンカー / 分子内環化 / スルタム / Thorpe-Ingold効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、アミノプロピルスルホン酸エステルを母核とする「刺激応答性リンカー」の構造をさまざまに変更し、分子内環化を従来の100倍以上速くすることを目的として研究を進めた。リンカー部位の構造変換は以下に示す二つのアプローチ、1.末端アミノ基への置換基導入と2.アルキル鎖の構造修飾、で行った。 1. 末端アミノ基にメチル基を一つまたは二つ導入した化合物は、メチル基の電子供与性誘起効果により求核性が上昇し、分子内環化速度が約10倍に上昇した。窒素原子上に電子供与性置換基を導入すると環化速度は上昇する傾向が見られた。しかし、本分子内環化反応においてアミノ基は求核部位として機能するため、分子内環化速度はアミノ基のかさ高さに対しても非常に敏感であった。メチル基よりも大きな置換基、例えばベンジル基等、を導入すると、分子内環化速度は1.5倍程度しか上昇しなかった。 2.求核部位と求電子部位をつなぐアルキル鎖上に置換基を導入すると、分子内環化速度が飛躍的に上昇する現象はThorpe-Ingold効果として知られている。Thorpe-Ingold効果による分子内環化速度の上昇を期待して、リンカー中のプロピル基に置換基を導入した化合物を合成した。アミノ基の隣の炭素原子上(3位)に置換基を導入すると分子内環化速度は4倍程度にしか上昇しなかった。末端アミノ基に隣接する炭素上の置換基は環化を加速するものの、環化の際の立体反発も大きく、結果的に加速効果が小さくなったと考えた。一方、真ん中の炭素原子上(2位)に置換基の位置を変更すると、分子内環化速度は20倍に上昇した。 上述の結果をもとに設計した、末端アミノ基およびアルキル鎖にメチル基をひとつずつ導入した化合物の分子内環化速度は元の化合物の200倍で、当初の目標を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アミノプロピルスルホン酸エステルを母骨格とする刺激応答性リンカーの末端アミノ基およびアルキル鎖の構造修飾により、分子内環化速度を当初の200倍に上昇させることに成功した。初年度は分子内環化速度を100倍大きくすることを目標としていたことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
刺激応答性リンカーのアルキル鎖上に二重結合を導入したビニルスルホン酸エステルは、それ自体分子内環化しない。しかし、低酸素条件下グルタチオンが過剰に発現している細胞または組織で、グルタチオンのスルフリル基が1,4-付加すると、ただちに分子内環化しフェノール誘導体が放出されると期待される。平成28年度に得られた知見をもとに設計したビニルスルホン酸エステルを母骨格とする刺激応答性リンカーに、蛍光性を示すフェノール誘導体を結合し、チオール応答性蛍光プローブを開発する。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、安価な合成試薬のみで研究を実施することができたため、一部の消耗品費は不要となった。そのため、実際の消耗品費の支出が当初の計画を大きく下回った。さらに、旅費についても必要としなかったため支出が生じなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、グルタチオンや生体試料等の高額な試薬を新たに購入する必要がある。さらに分光用石英セルや分光器用のランプ等の購入が予想され、平成28年度と比較して大きな支出の増加が見込まれる。旅費については、すでに国内学会への参加を計画している。
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Research Products
(4 results)