2018 Fiscal Year Annual Research Report
A practice of suicide prevention based on philosophy about death and suffering
Project/Area Number |
16K21405
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
岩崎 大 東洋大学, 東洋学研究所, 客員研究員 (80706565)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自殺 / 自殺予防 / 実存思想 / 不条理 / 限界状況 / デス・エデュケーション / 死生学 / 死生観 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代社会に顕在化した生と死に関する諸課題のひとつとして、本研究では自殺予防をとりあげ、従来の精神医学や社会学的アプローチとは異なる、哲学による実践の可能性を示した。本年度は研究の最終年度であり、これまでの研究を集約しつつ、哲学的な自殺予防プログラムの射程を明らかにした。 哲学の視点で自殺を扱うことで明らかになるのは、自殺を否定することを前提とした自殺予防アプローチが、自殺念慮者に対する理解やコミュニケーションに齟齬を生み出す可能性があること、また、自殺念慮者の抱える苦悩が、本質的には人間に根源的であると同時に、視野狭窄によってその苦悩を本質的苦悩として認識できていないことである。本年度はとりわけ実存思想のなかで、アルベール・カミュの不条理と反抗、そしてカール・ヤスパースの限界状況とコミュニケーションといった概念を中心にして、人間の本質的苦悩と自殺の関係を分析した。実存思想に基づく自殺予防の実践とは、苦悩の解消や自殺の否定を前提とせず、反対に世界に対する不条理や限界による本質的苦悩を見据えることで明らかになる自由や幸福、自己充実へと飛躍していく哲学の営みそのものである。 哲学的な自殺予防の実践は、極端な視野狭窄に陥り、危機的状況にある自殺念慮者への危機介入としてよりも、それ以前の、自殺念慮を抱かせないための予防の段階として行われるのが理想であり、それは同時に死生観形成として、自殺予防に止まらない人格の陶冶となりうるが、これを実現させるためには、生得的に有する本質的苦悩を自覚させる価値破壊的な作業が必要となる。その有効なデス・エデュケーションの具体的プログラムは、近刊において発表する予定である。
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