2016 Fiscal Year Research-status Report
嗅覚の後天的発達可能性の精査及び香料機能性の最適化への応用
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16K21418
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Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
神保 太樹 星薬科大学, 先端生命科学研究所, 寄附講座等客員助教 (60601317)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 嗅覚 / 機能性香料 / 神経発達学 / 神経可塑性 / NIRS / 脳神経イメージング / ポータブルNIRS / 嗅覚マッピング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、研究のシステム作成とその試用を行った。またNIRSを用いた匂い刺激時の脳神経刺激領域の特定の為に実際の研究を行った。 試用としては、まずシステムの運搬が必要となったため、その為のシステムを作成した。システムはNIRSシステムSpectratech社製OEG-16機器をベースとして、アイリスオーヤマ社製AM-15アルミアタッシュケースに制御用PCおよびキーボード等のコンソールを設置した。制御用PCはギガバイト社製GB-BXBT-2807をベースとして作成し、情報の表示はTOGUARD製9インチTFTモニターを設置して作成した。PCおよびTFTモニタは電源としてAC電源を必要とするが、RAVPower社製の20100mAhバッテリーを用いて可動させられるようにした。またNIRS機器本体については充電池(Panasonic社製電池容量 : min.2450mAh/1.2Vを8本使用する。)を用いて2時間程度の稼動時間を確保可能とした。 実際の研究としては、ストレスバックグラウンドと精油による神経反応性の関係を明らかにする為に、心理尺度と精油の間の関係性の測定実験を行った。また簡易脳波計測と近赤外光イメージングの間の匂い刺激時の曝露実験を行った。しかしこれらの研究からは心理学的指標の計測結果とは統計学上の有意な相関は得られなかった。また、脳波等の既存の簡易な評価法との完全な相関は得られなかった。 しかしこれまでの研究よりヒトの脳において、個々人の経験や教育歴が影響を与え、匂いが与える脳の応答領域に差がでることが明らかであるので、今後はストレスバックグラウンドのみならず、各種の調整因子の同定を行いさらに研究を進めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ポータブルNIRSのスペックを活かす為の機会作成について、想定以上の時間が必要であった為、全体的な研究の進捗はやや遅れている。しかし、NIRSの輸送および実施においては、安価かつ必要十分のスペックを持つシステムの確立が行えた為、今後の研究進捗については十分なスピード感が見込める見通しである。 実施した研究についての進捗については、第一に嗅覚機能性の比較の為の予備検討においては、カモミール、クラリセージ、グレープフルーツ、サイプレス、サンダルウッド、パチュリ、フランキンセンス、ペッパー、ベルガモット、ベンゾイン、レモン、レモングラス、ミルラ、ユーカリ、ヒノキ及びマジュラムといった天然香料および、OSITやUPSITといった嗅覚同定法にある合成香料についてのNIRS上の予備データを採取済みであるため、今後はこれらの香料の機能性(特に既報の神経心理学上の機能性)を同定することが可能と考えられる。 尚、ここまでの研究では、精油の曝露によって前頭前野近傍部においては全域にわたる有意な変化を観察したものの当初の予測に反して、心理学的指標の計測結果とは統計学上の有意な相関は得られなかった。 また、NIRSのデータと簡易脳波計によって得られたデータについても、同じ香料の既報の機能性を必ずしも支持するものではなかった。例えばペパーミントは既報文献からは脳神経の活動を賦活し、交感神経系を刺激するものと考えられたいたが、我々の実験ではは脳活動量の有意な低下が観察され、交感神経の明確な刺激は確認されなかった。 このように当初の予測と結果の間には解離があったが、精油の匂いそれぞれについては脳の活動パターンに有意な差が今回も確認できているため、一定の進捗はあったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、ここまでの研究結果は予想された結果とは必ずしも合致していない。第一にプロトコル作成の為の既報の機能性が十分な根拠を持っているわけではないことが問題点として考えら得る。そのため、小規模な介入調査を経て、本研究において作用すべき機能性の予備検討をもう少し行う必要があると考えられる。具体的には10例前後の臨床研究によって、少なくとも現在香料機能性研究で良く用いられるラベンダー、レモン、ローズマリー等の天然香料および、リモネン、ヒノキチオール、酢酸リナロール等の合成香料については神経心理学的機能性を精査する必要があるため、来年度はこの検討も行う。加えて、バックグラウンドとしての因子も不明な点が大きいので、本年度行った心理学的評価に加えてHMAやMADRS、POMSなどの評価尺度についても追加の検討を行う。それらの結果から、中規模のRCTを行い、その結果を統計処理することによって、嗅覚の後天的な発達に寄与する因子の同定をある程度行う見通しである。また、認知症およびうつ病などを有する有病者についても、機能性をより明確にする為に協力医療機関における小規模の臨床的介入を行い、その結果を報告する予定である。 以上を踏まえて、来年度の目標としては第一に香料機能性のうち、一定の信頼性を持つ機能性の同定である。第二にその機能性の有病者における活用の為の予備検討の実施を行う。第三に、それらの介入結果に与えた対象者のバックグラウンドを精査し、単にストレスバックグラウンドだけではなく、教育歴、有病歴、服薬歴等の包括的なバックグラウンドについての情報を収集し、それらを検討する予定である。
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Causes of Carryover |
申請時にはスペクトラテック社製OEG-17ADPを購入して運用する予定であったが、交付決定額が減額した為、この機種の購入には初年度交付額では不足となった。そこで最低限の物品の購入にとどめ、次年度以降に再計画した。 また、本年度より外部研究所に勤務した為、研究所の予算との調整を行う必要があった為、本年度の予算の使用は一部を使用したにとどまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度には外部予算と併用してOEG-17ADPの購入を行うか、ないしはOEG-16の内部基板のアップグレードを行うことでデータ精度の向上を行う予算として使用する予定である。
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Research Products
(4 results)