2018 Fiscal Year Annual Research Report
Boundaries between Orthodox Medicine and Alternative Medicine
Project/Area Number |
16K21422
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
黒崎 周一 明治大学, 文学部, 兼任講師 (10772246)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イギリス史 / 医学史 / 境界設定 / 科学的医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)『ヴィクトリア朝文化研究』第16号にエッセイ「『正統医学』と『代替医療』の境界線」が掲載された。このエッセイでは,これまでの代替医療に関する研究史,特に正統医学と代替医療との相違,境界線についてどのような議論がなされてきたのかを紹介した。特に鍼灸などの西洋にとっての異文化医学と近代医学との関係性を,近年注目されているトピックとして取り上げた。 (2)2019年の初夏に,この3年間の研究の成果をまとめた『ホメオパシーとヴィクトリア朝イギリスの医学 ―科学と非科学の境界』を刀水書房から出版する予定である。本書では,ヴィクトリア朝イギリスのホメオパシーを事例として,科学と非科学の境界線の構築過程を考察した。より具体的には,医学雑誌,医学会,篤志病院,薬品業などの様々な場における,ホメオパシーの排斥と,それをめぐる論争を分析している。従来の研究では,正統を自任する多数派の医師がホメオパシーのような異端医学を排斥し,科学と非科学の境界線が社会的に構築される過程に着目する傾向があった。 これに対し本書は,当時の医師や世論に「正統」と「異端」という構図を忌避する傾向が見られたことに着目した。この構図を非科学的なセクト主義に由来するものと批判し,排斥ではなく,寛容な態度をもって議論に臨むことこそ科学的であると主張していたのである。そうした主張の根底には,ヴィクトリア朝イギリス社会の支配的な風潮であった自由放任主義の影響があった。このように従来の研究が取り上げてきたものとはことなる境界線の存在を明らかにすることで,科学としての医学の形成過程に再検討を加えたのである。
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