2017 Fiscal Year Research-status Report
陽電子対消滅によるサイト選択的イオン脱離過程の研究
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16K21424
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
立花 隆行 東京理科大学, 理学部, 研究員 (90449306)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 陽電子 / 電子遷移誘起脱離 / 陽電子対消滅 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に準備したガス導入系を用いて、二酸化チタン表面上に水が吸着した系における陽電子刺激脱離の測定をおこなった。また、新たに開発した電子刺激脱離測定用のシステムを使い、同一試料において電子衝撃脱離の測定もおこなった。その結果、電子衝撃脱離の場合には表面に吸着した水に由来する水素イオンや水酸基イオンの信号が増えたのに対して、陽電子刺激脱離では清浄表面と同様に酸素イオンの脱離が主体であることが明らかになった。この結果は、陽電子消滅によるサイト選択的な脱離を反映していると考えられる。固体中に入射した陽電子は、固体内で拡散しながら自身が好むサイトを探し出し、そこに局在して対消滅するという性質をもつ。二酸化チタン内においては、陽電子はチタン原子周辺よりも酸素原子周辺に陽電子が集まるという理論計算結果が報告されている。つまり、陽電子消滅による酸素イオンの脱離は、二酸化チタン表面のチタン原子よりも酸素原子の内殻電子消滅によって起こることが推測できる。一方、電子衝撃で観測される水素イオンは、水分子がチタン原子上に解離吸着して形成した水酸基から脱離すると考えられている。つまり、陽電子はチタン原子やその上に吸着したOH基の電子と消滅する確率が小さいためにサイト選択的な脱離が起こると考えられる。 新たな試みとして、二酸化チタン表面から陽電子消滅により酸素イオンの脱離が起こるという機構を検証するために、陽電子が対消滅する際に放出する消滅ガンマ線のエネルギースペクトルの入射エネルギー依存性も測定した。その結果、入射エネルギーに対する脱離イオン収率と消滅ガンマ線スペクトルから求めたSパラメータの変化に相関があることがわかり、これまで提唱してきた陽電子消滅誘起脱離のモデルと矛盾しないという結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、表面吸着系からの脱離の観測をおこなった。電子衝撃脱離と比較測定をすることで、陽電子対消滅によるサイト選択的イオン脱離に関する知見が得られた。おおむね計画通りに実験を進めることができた。その一方で、より詳細なデータを取得するためには、脱離イオンに対する質量分解能を向上させる必要があることがわかった。これを踏まえて、今後の研究計画を一部変更して装置の改良をおこなうことにする。
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Strategy for Future Research Activity |
二酸化チタン上に水以外のガスを吸着させて測定する予定であったが、測定装置の質量分解能を高める必要が出てきた。そこで、まずは電極の追加と配置の見直しを進める。装置の改良が終わり次第、清浄な二酸化チタン表面及び、水が吸着した試料表面における陽電子刺激脱離を再度測定する。これにより、これまでのデータと比較することにより質量分解能の向上を確認するだけではなく、データの再現性についても確証もおこなう。これらの測定が終わった後に、ガス吸着系からのイオン脱離の観測を進める。研究の進み具合によっては、二酸化チタン結晶以外の試料を用いて測定することも視野に入れる。
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Causes of Carryover |
研究を進めていくなかで、装置の質量分解能を向上させる必要がでてきた。そこで、当初予定していた主要な測定を遂行しつつ、計画を一部変更して翌年度に装置の改良をおこなうことにした。この理由から当該助成金が生じた。翌年度分の助成金は、主に装置の改造費と新しい試料購入費に充てる。
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