2017 Fiscal Year Research-status Report
史上最大の動物の最小の骨:ヒゲクジラ類における耳小骨の形態・機能・進化
Project/Area Number |
16K21437
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Research Institution | Shumei University |
Principal Investigator |
村上 瑞季 秀明大学, 学校教師学部, 助教 (70710614)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヒゲクジラ / 耳小骨 / 形態 / 系統 |
Outline of Annual Research Achievements |
耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)は哺乳類の骨格中で最小の骨であるが、外耳で集めた音響を増幅し内耳に伝える非常に重要な働きをしている。ヒゲクジラ類は数十~数千kmまで届く超低周波数の鳴音の鳴音を用いており、耳小骨の形態と機能はその生態に深く影響を与えていると考えられる。にもかかわらず、ヒゲクジラの耳小骨の形態や機能には、これまで注意が向けられてこなかった。本研究では、①ヒゲクジラ類の耳小骨について包括的な比較骨学的記載を行うこと;②耳小骨の形態が系統を反映しているのかどうか明らかにすること;③ヒゲクジラ類の耳小骨の形態と可聴域に関する数理モデルを完成させること、の3つを目的としている。 これまでの調査結果から、ヒゲクジラ類のツチ骨の形態は科ごとに異なっていることが明らかになった。特に現生のナガスクジラ科、コククジラ科、セミクジラ科では大きく形態が異なっている。後面観において、コククジラ科のツチ骨は他の科と比べてかなり左右に短い。ナガスクジラ科におけるツチ骨のキヌタ骨との関節面は、他の科よりも楕円に近い形を呈している。ケトテリウム科の関節面はハートに近い形をしている。コククジラ科とセミクジラ科では、horizontal facetとhemicircular facetの面積比が大きい。セミクジラ科のツチ骨柄の先端は大きくカールしている。ツチ骨柄の角度は鼓膜張筋の長さと停止する角度を規定するため、ヒゲクジラ類のツチ骨の形態の違いは、それぞれの種類が用いる鳴音の周波数を反映している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
キヌタ骨とアブミ骨は国内の研究機関にほとんど収蔵されていない。また、講義や学内業務とのスケジュール調整が難しく海外調査が行えていない。そのため、キヌタ骨とアブミ骨に関するデータが不足している。鼓室包・耳周骨と関節した状態の耳小骨のマイクロCT撮影が終わっていないため、数理モデルの構築も遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
海外調査を実施しデータが不足しているキヌタ骨とアブミ骨の形態データを得る。ツチ骨については、これまでに集めた形態データを基に、ヒゲクジラ類におけるツチ骨の形態と系統関係を明らかにし、個別の論文としてまとめる。鼓室包・耳周骨と関節した状態の耳小骨については、マイクロCT撮影を行ない、ヒゲクジラ類の耳小骨の形態と可聴域に関する数理モデルの構築に関する研究を推進する。
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Causes of Carryover |
標本観察を効率的に行なうために顕微鏡のオプションパーツを購入した結果、当初の計画より支出が多くなった。平成30年度については、旅費を切り詰めることで適切に研究を遂行する。
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