2018 Fiscal Year Research-status Report
企業価値向上に寄与するガバナンス構造に関する実証研究
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16K21448
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Research Institution | International University of Japan |
Principal Investigator |
伊藤 晴祥 国際大学, 国際経営学研究科, 准教授(移行) (30710678)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マネジメントバイアウト / コーポレートガバナンス / アンダーバリュエーション / コーポレートファイナンス / 非公開化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は継続して日本におけるMBOを事例として、今までの研究で理解された高額のプレミアム(平均で2か月前の株価に対して49%)の支払うことによって行われる要因の分析について検討をする。MBOの要因を大別すると、1. エージェンシー仮説, 2. 富の移転仮説, 3. アンダーバリュエーション(割安株)仮説がある。エージェンシー仮説は、経営者に株式が集中することにより、企業価値へのインセンティブが高まることから、企業価値がMBO後に高くなることが期待されるために、高いプレミアムを支払ってまでもMBOを行うことが正当化されるとする仮説である。日本の場合、アメリカとは異なり、MBO以前から株式が経営者に集中しており、さらに、MBO後にキャッシュフローなどの収益性の改善も見られないことから、エージェンシー仮説は支持されない。同様に、MBO前後で従業員数の変化が見られなく顕著なリストラもないことから、富の移転仮説も支持されない。しかし、アンダーバリュエーション仮説については、MBOの前では、株主資本簿価/株主資本時価が類似企業の中央値よりも有意に低く、かつ、MBO後には同比率が有意に改善することが認められることから、支持される。アンダーバリュエーションの源泉をさらに分析するために、本年度は、アンダーバリュエーションが、1. 業界要因, 2. マクロ(時系列)要因, 3. 個別要因のいずれによってもたらされているか、を検討することにより、MBOが個別的な事象なのか、経済要因に起因する事象なのか、業界要因に起因する事象なのかについて分析を進める。 また、日経ビジネスの記者からMBOに関する研究について取材を受け、ロジスティック回帰分析を利用して、MBOをする企業の傾向(外国人投資家の割合が高い等)についてお答えした。その内容は、2019年1月24日号の日経ビジネスに掲載されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
トップジャーナルでの刊行を目指しているが、過去に2度不採択となっており、今回は、Journal of Financial and Quantitative Analysisに提出をする予定であるため、あらたな分析を行っている。分析は上述の通りアンダーバリュエーションの要因分解であるが、そのためのデータセットの整理に思った以上に時間がかかっている。業界要因について業界を定義する必要があるが、東京証券取引所の業種コードが年によって変わっている企業が思った以上に多かったためである。近日中に終了する予定であるので分析も早々に終わらせたい。
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Strategy for Future Research Activity |
アンダーバリュエーションの要因分析のためのデータセットの整理を行う。上記の通り、年代ごとで業種コードが異なる場合には、直近のコードに統一をしている。データセットの整理後に、回帰分析を行い、アンダーバリュエーションによって行われたMBO は、産業ごとに異なるか、経済状況毎に異なるか、あるいは、個別要因に起因するところが多いかについて分析を行う。アンダーバリュエーション仮説を検証し、Journal of Financial and Quantitative Analysisに提出する。その後、新しいガバナンス研究に従事したいと考えている。特に、近年では持続的な開発課題(SDGs)や、Environment, Social, and Governance (ESG)投資や、Sustainable Development Goals (SDGs) ファイナンスへの関心が高く、コーポレートガバナンスコードの精査のみならず、ガバナンス構造と企業価値向上の関係のみならず、ガバナンス構造と社会貢献活動(特に環境分野と社会問題解決に関する活動)との関係、またガバナンス構造の違いにより、企業の社会貢献活動が企業価値へ与える影響がどのように変わるか、なぜ異なるかについて検証を進める。 最終年度ではあるが、大学が変わったため新しい業務などもあるが、研究日制度を利用してまとまった時間を作る。さらに、データもより充実しているため、整ったデータセットをできる限り利用して研究成果が短時間であげられるようにする。授業科目もコーポレートファイナンス、コーポレートガバナンス、ファイナンシャルレポーティングであり、研究分野とも関係あるため、授業準備と研究推進が同じ作業となるようにする。
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Causes of Carryover |
MBOに関する経過が遅く、すでに所有しているデータセットを利用して分析を継続したため、新しいデータセットの購入を依然として行っておらず、大きな出費がなかったためである。また、海外学会発表も予定していたが、昨年度について見送ったためである。今年度の使用計画については、MBOに関する研究が完了次第、より大きなデータセットを利用したコーポレートガバナンスに関する実証研究に進みたいと考えており、最新の企業の株価データ、 財務データ、ガバナンスに関するデータを購入予定である。また、統合レポートに記載の、企業の社会的責任(CSR)や、持続的な発展課題(SDGs)に関する量的及び質的データの整理を検討している。研究成果が整った際には、海外での学会発表も予定している。
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