2016 Fiscal Year Research-status Report
「縁」概念に着目した宗教的共同性の研究:チベットのボン教徒を中心に
Project/Area Number |
16K21449
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Research Institution | Kanazawa Seiryo University |
Principal Investigator |
小西 賢吾 金沢星稜大学, 教養教育部, 講師 (80725276)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | チベット / ボン教 / 共同性 / 縁 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、グローバルに展開するチベットの宗教文化を主な対象に、宗教を実践する人びとの間に形成される共同性を「縁」概念に着目して解明することを目的としている。平成28年度においては、宗教的共同性に関する研究文献や、チベット仏教およびボン教の僧侶による著作を対象にした調査を行い、本研究の理論的基盤の構築を目指した。その過程で、縁概念をいくつかのカテゴリーに分類し、相互の関係について考察した。 文化人類学および関連分野においてもちいられてきた社会関係をあらわす概念としての縁を「社会的縁」としてとらえ、生得的な社会関係から成長に伴って加入する組織、個人を基盤とするネットワークへとその変容を跡づけた。こうした変容の中で、縁は個人が自立した主体として選び取るものとしての性格が強化されてきたことを見いだした。 一方、チベット仏教をはじめとする仏教の教理哲学で構築されてきた、世界と事物の成り立ちを説明するための縁を「哲学的縁」としてとらえ、その用例について分析した。このカテゴリーは、インド思想から初期仏教にみられる因果説から、チベット仏教中観派を中心とする縁起説まで、多様な展開をとる。文献調査を進める中で、仏教以外の宗教における類似の概念、たとえばキリスト教における「神の摂理」との共通点や相違点を明らかにするという課題も提起された。 これらを架橋するために、非日常的経験の中で非主体的に巻き込まれる経験を捉えるための視座として「宗教的縁」を提起した。これまで収集してきたチベットにおける僧侶および俗人のライフストーリーから、人生の転機となった縁の体験を抽出し、それが仏教的因果関係で説明される場合と、むしろ説明不可能なものとして語られる場合があることを見いだした。特に後者の要素を説明するための、チベット固有の概念について分析を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度においては、本研究の理論的基盤となる視座の構築を行うことを目的としていたため、その目的はおおむね達成された。その一方で、予定していた通りのフィールド調査を行うことができなかったため、本年度に得られた知見を踏まえた上で、次年度において追加の調査を行い、計画に沿った知見が得られるようにする。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで得られた知見を踏まえて、引き続き文献調査およびフィールドワークによる研究を進めていくとともに、成果の公表につとめる。特に、今年度新たに収集できなかった僧侶のライフストーリーについて、積極的に一次資料の収集を行っていく。また、今年度の調査から、本研究が扱う宗教的共同性が、個別の宗教を越えた普遍的な課題へと接続していることが提起されたので、本研究計画の範囲内で、関連する文献調査を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度予定していたフィールドワークが実施できなかったため、また購入を予定していた文献の一部が本年度内に入手できないものであったため、次年度に使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、当初の研究計画に加えて追加のフィールドワークを行うために旅費を使用し、今年度収集できなかった一次資料の収集につとめる。
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