2019 Fiscal Year Research-status Report
「縁」概念に着目した宗教的共同性の研究:チベットのボン教徒を中心に
Project/Area Number |
16K21449
|
Research Institution | Kanazawa Seiryo University |
Principal Investigator |
小西 賢吾 金沢星稜大学, 教養教育部, 准教授 (80725276)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | チベット / ボン教 / 共同性 / 縁 / 僧院 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、グローバルに展開するチベットの宗教文化を主な対象に、宗教を実践する人びとの間に形成される共同性を「縁」概念に着目して解明することを目的としている。2019年度においては、研究成果のとりまとめに向けて、これまで実施してきたボン教やチベット仏教の高僧の伝記を中心とする文献調査、そして中国およびインドのボン教僧院におけるフィールド調査結果の分析と、そこから得られた知見をコミュニティ論に位置づけるための理論的整理を行った。 文献調査からは、「縁」概念の主に口語的な用法や前後の文脈に関する詳細な検討を手がかりにして、仏教的な思想だけに還元できない要素を見いだし、それに偶然や幸運といった要素が関連していること、そしてそれが実際のフィールドで聞き取りを行った人びとからはしばしばボン教的、土着的と解釈されていることが明らかになった。フィールド調査の結果からは、これを裏付けるように、宗教実践をめぐって発生する偶然の出会いが、共同性の構築に深く関わっていることが明らかになった。ここで構築されたつながりが、高僧との対話や、大規模な儀礼への参加を通じて強化されていくことが示唆された。こうした知見を多面的にとらえながら補強していくために、中国のボン教僧院にルーツを持ち、現在アメリカ合衆国を拠点に活動するボン教僧侶と信者コミュニティに関する調査を継続している。 以上から得られた知見を、コミュニティの存続をめぐる諸論点と総合し、従来外部者としてあくまでも周縁的、副次的に捉えられていた非チベット人ボン教徒、あるいはパトロンが、宗教実践の存続に重要な役割を果たしていることを明らかにした。これらの成果について、研究会での口頭発表および論文にまとめ、公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、研究成果のとりまとめに向けて、チベットにおける「縁」概念の用法と宗教的共同性をめぐる議論、コミュニティとの接続について知見を順調に整理することができ、関連する研究成果も出版することができた。ただし、予定していたフィールド調査について、新型コロナウイルス感染症の影響によって延期を余儀なくされたため、次年度にこれを実施することとした。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで得られた知見を踏まえて、成果の公表につとめる。また、チベットの事例から抽出された「他者との偶然の出会い」とコミュニティ形成に関する議論を通文化的に比較検討していく必要性が明らかになったので、本研究計画の範囲内で関連する調査研究を進めていきたい。
|
Causes of Carryover |
今年度実施を予定していた現地調査が延期を余儀なくされたために、次年度使用額が生じている。今年度実施できなかった調査と、成果のとりまとめのために、次年度に経費を使用する計画である。
|