2018 Fiscal Year Research-status Report
音楽認知能力の習得を支える神経基盤とその処理メカニズムに迫る
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16K21452
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
松永 理恵 神奈川大学, 人間科学部, 准教授 (70399781)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 音楽認知 / 調性知覚 / 調性スキーマ / 発達 / 文化 / ニューラルネットワークモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究では,音楽発達研究領域において初めて,欧米人以外の文化に育つ子どもの発達データを収集した。具体的には,西洋音楽と日本伝統音楽の二種類の音楽が併存する現代日本の子どもに焦点を当て,彼らが二種の調性スキーマを獲得していく過程を実験的に観察した。そして,従来の研究が報告してきた欧米の子どもの調性スキーマ獲得過程と,日本人の子どものそれとを比較することで,文化普遍的特性(例えば,7歳前後で,育つ文化の音楽の調性スキーマを獲得すること)と文化特殊的特性の違いの一端を指摘した。 2018年度は,以上の研究成果を総括し,国際・国内学会で発表(国際学会iCAST2018での招待基調講演,ヒト脳機能マッピング学会での招待英語シンポジウム,日本音楽知覚認知学会でのポスター賞受賞など)すると共に,当該知見を基に英語論文を作成し,投稿の準備段階に入った。 また,日本人の子どもの調性スキーマ獲得過程を正確にシミュレートできる神経回路網モデルの構築に成功した。さらに,モデルを用いて,調性スキーマ獲得を導く音楽聴取経験とは何か(獲得は曝される音楽の量にのみ依存するのか,西洋音楽や日本伝統音楽など個々の音楽入力構造に依存して獲得しやすさに差があるのか)などを検討するシミュレーション実験も実施した。一連の実験成果については,2019年度の日本音楽知覚認知学会春季研究会にて発表予定である(既に発表申し込み済)。 幼少期の音楽文化環境が異なる聞き手群を対象に,脳磁場計測実験も実施した。そのところ,幼少期の音楽聴取文化環境に依存して調性処理に関与する脳活動が大きく変化している可能性は低いことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度は,本申請期間中に実施してきたデータをまとめ,4種(うち,招待講演2種)研究発表と英語論文を作成した。子どもを対象とした実験のデータ収集には予想以上に時間がかかったが,本年度までにある程度の研究成果を蓄積できたといえる。また,神経回路網モデルを用いたシミュレーション実験を実施することで,人間の子どもでは現実的・倫理的に実施できない実験を模擬的に行うことができ,新たな研究知見の発見に至った。とはいえ,研究代表者が2017年度に所属機関を異動したことにより,当初の時間的スケジュールよりも研究が遅れている点は否めない。
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Strategy for Future Research Activity |
本申請研究では,音楽発達研究領域において初めて,欧米人以外の文化・現代日本に育つ子どもの発達データを収集し,調性スキーマ獲得過程を実験的に観察した。そして,従来の研究が報告してきた欧米の子どもの調性スキーマ獲得過程と,日本人の子どものそれとを比較することで,文化普遍的特性と文化特殊的特性の違いの一端を指摘した。今後は,現在までの研究成果から指摘するに至った「文化普遍的特性と文化特殊的特性」の実態を,直接的な文化比較実験において検討する。具体的には,ノルウェー,インドネシア,日本の子どもを対象とした実験を計画している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は次の3つによる。1つ目は,研究代表者が2017年度に所属機関を異動したことにより,研究環境(実験機材,実験参加者プールの再構築など)を再び整えなければならなかったことにある。2つ目は,1つ目の遅れにより,論文投稿も後倒しで遅れており,研究総括が完全に終わっていないことにある。3つ目は,得たデータを解析した結果,新たな示唆が得られ,その示唆を検証する実験を追加すると,本研究領域への貢献度がより大きいと期待されるためである。次年度に使用する予算は,3番目の追加実験の実施の際に使用することを予定している。 以上の理由を基に延長申請を行い,その申請の承認は既に得ている。
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[Journal Article] A cross-cultural comparison of tonality perception in Japanese, Chinese, Vietnamese, Indonesian, and American listeners2018
Author(s)
Matsunaga, R., Yasuda, T., Johnson-Motoyama, M., Hartono, P., Yokosawa, K., & Abe, J.
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Journal Title
Psychomusicology: Music, Mind, and Brain
Volume: 28
Pages: 178-188
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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