2016 Fiscal Year Research-status Report
開発途上国における児童の時間の浪費を考慮に入れた経済モデル構築と政策評価
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16K21454
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Research Institution | Nagoya Gakuin University |
Principal Investigator |
菅原 晃樹 名古屋学院大学, 経済学部, 准教授 (80581503)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 開発経済学 / 労働経済学 / 児童労働 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題初年度である本年度は、研究目的で述べたように、(Ⅰ)「教育にも労働にも従事せず、時間を浪費する児童が出現する理由を明らかにするための基本モデルを構築し、それが開発途上国の家計や企業に与える影響を分析する。」(Ⅱ)「(Ⅰ)で構築したモデルを人的資本理論を用いた動学マクロモデルに拡張し、動学分析を行うことにより経済発展への影響を調べる。」という2つの項目を実施した。 達成された研究結果を以下に簡潔に述べる。Stay idleの児童が存在することを仮定したモデルを構築することにより、所得(人的資本水準)が低い家計においては教育も労働も行わない児童(Stay idle)が存在し、家計所得の上昇はまず児童の労働市場における労働時間の増加をもたらし、さらに所得が上昇すると労働時間が減少し教育時間が上昇していくという結果を導いた。この結果は既存の研究で仮定されているような教育と労働の単純なトレードオフだけでは児童の行動が表せないことを示している。Stay idleを踏まえると家計所得が上昇しても単純に児童労働が減少するわけではないことが示唆される。この分析を基にさらに人的資本の動学分析に拡張すると、人的資本の蓄積による経済発展の経路が一意には決定されないことが示される。本モデルで仮定するようなStay idleが存在するもとでは、家計所得が上昇しても教育水準が上昇し、人的資本蓄積が単調に進むわけではないからである。これらの結果は発展途上国における教育政策に対して、既存の先行研究のモデルより深い洞察を与える。近年のフィールドワークにおけるデータの蓄積で解ってきたような、児童の教育水準を高めるために児童や親に対する動機付けがより重要であることが示される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の「研究の目的」として挙げた項目は上で述べた研究業績の概要にある通り本年度中にほぼ達成した。さらに研究実施計画で挙げたとおり、本研究代表者は平成28年9月まで、Indiana Universityへ海外長期研修に行っており、訪問プログラムを行いながら本研究課題に関して有益な助言などを得ることができた。受け入れ教員であるGehard Glomm教授との打ち合わせを主として、Indiana UniversityにおけるワークショップやAmerican Economic Associationの年次大会に参加することにより、最先端の研究手法を学び取り入れることができた。帰国後も同志社大学のワークショップで本研究課題に関することを報告するなど様々なところでコメントを得ることができた。 これらを総合的に判断すると、本研究課題の達成に向けておおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、研究業績の概要で述べた成果を基に児童労働撲滅と経済発展を進めるための政策提言を行う。その際、「教育にも労働にも従事しない児童」が現実に与える影響を考慮に入れて政策評価をするために、シミュレーションによる定量的な厚生分析を行う予定である。特に教育の生産性を高めるインフラ整備や教育補助金・近年注目されているFood-For-Education、児童や両親の教育への関心を高めるための誘因付けなどの教育政策などに関して、経済発展の方法としてどこまで有効であるかを分析する予定である。それらの研究成果を本研究代表者が所属している日本経済学会や応用経済学会などで報告を行うことにより幅広く意見を集める予定である。
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Causes of Carryover |
本研究代表者は当該年度9月までIndiana Universityへ長期研修へ行っていた。本研究課題の採択が研修期間の途中であり、Indiana Universityにおける教育・研究の計画がある程度固まってしまっていたため、アメリカに滞在中の年度前半は使用計画通りに支出することが難しくなってしまった。特に旅費に計上していた項目が後半に偏ってしまったことが原因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は日本経済学会や応用経済学会、国際経済学会に参加・報告することにより本研究課題に関して幅広く意見を集める予定である。また、12月にAustralian National Universityで開催されるThe Asian and Australasian Society of Labour Economics (AASLE)にも参加予定であり、このための旅費が必要となる。加えて、本研究に関連する開発経済学・労働経済学・経済成長論・動学マクロ経済学・数値解析等の書籍や研究資料の購入を予定している。また、モデルの数値計算を行うための解析ソフトウェアのライセンスを購入する予定である。
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Research Products
(2 results)