2016 Fiscal Year Research-status Report
「歴史の現代性」と「芸術の普遍性」――クローチェ思想を読み直す
Project/Area Number |
16K21469
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Research Institution | Kyoto University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
國司 航佑 京都外国語大学, 外国語学部, 講師 (10760324)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | クローチェ / 歴史 / 現代史 / 歴史哲学 / 文学史 / 文芸批評 / 美学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、思想家ベネデット・クローチェの歴史哲学を代表する「全ての真の歴史は現代史である」という命題について、その成立の過程を明らかにしようとするものである。この目的を達するために、4つの個別課題を設け本研究は開始された。平成28年度に研究を進めることを予定していた最初の3つの課題のそれぞれについて、以下に成果を記す。 第1の課題は、クローチェの文学史家としての活動(20世紀初頭)をまとめ直すことであった。この課題に関しては、いまだ論文の形にまとめる段階には至っていないが、その途中成果は、日本イタリア会館における講演「ベネデット・クローチェとは何者か」のなかで発表された。第2の課題は、クローチェの歴史哲学の変遷の分析であった。まず『芸術の全般的概念に還元される歴史』(1893)および『歴史叙述の理論と歴史』(1918)を、さらには『論理学』(1909)の歴史に関する部分を読み進めた。前者2作に関しては順調に進捗したが、『論理学』については難解な個所が多くあり、さらなる精読が必要である。また、周辺の研究から、あらたに『美学』(1902)の歴史に関する部分が分析の対象となるべきことが明らかになった。第3の課題はクローチェの読書体験(1909年から1917年まで)の検証であった。この課題に関しては、当初の予定通りには研究を進められなかった。以上3つの課題に加え、我が国におけるクローチェの歴史哲学の受容に関する研究を行った。その結果、クローチェの歴史哲学が様々なイデオロギーの人間に様々な仕方で大きな影響を及ぼしていたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定に比べて、やや遅れている。研究を進める途中で、当初予期しなかったことが生じたためである。とりわけ、第2の課題(クローチェの歴史哲学の変遷の分析)の過程で、『論理学』の精読に予想以上の時間が必要であることが判明し、また当初の計画になかった『美学』(1902)の歴史に関する部分をも分析の対象とすべきことが明らかになった。そのため研究の進捗が遅れ、第3の課題である「クローチェの読書体験」に関する研究がいまだ手つかずの状態にある。 また、講演会やシンポジウムの開催など社会へ向けた発信のため、当該研究に十分な時間が取れなかったことも理由の一つである。さらに、年度の途中で「日本におけるクローチェ歴史哲学の受容」に関する研究を着想しこちらを優先させた。それは、一方で当初の計画通りに研究を進捗させることを難しくしたが、他方ではクローチェの歴史哲学に関する予期しない新たな発見をもたらした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進捗状況が予定通りでないため、平成28年度の解決できなかった課題(2「クローチェの歴史哲学の分析」の一部、3「クローチェの読書体験に関する研究」の全体)を平成29年度の前半に行う。平成29年度中に全体の後れを取り戻せなかった場合、平成29年度の研究計画の一部を平成30年度に行う。
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