2016 Fiscal Year Research-status Report
歴史観光都市の経済的被害と復興過程の定量的評価に関する研究
Project/Area Number |
16K21488
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
崔 明姫 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (60734910)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 観光被害 / 歴史観光都市 / 自然災害 / 文化遺産 / 経済的被害 / 定量評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、歴史観光都市を対象に、ストックとフローの被害の概念をベースにした観光被害の階層的解明モデルを開発し、文化遺産の被害、風評、自粛など多様な要因が地域経済にどう影響するかを定量的に評価するものである。 2016年(平成28年度)は、主に観光業のストックの被害を把握することを目的とし、観光資源(文化遺産)と、観光産業施設(宿泊飲食施設など)の被害事例における被災状況、修復費用などの要件を調査研究により明らかにした。また、観光被害の定量解析モデルの開発に向けて、観光客の意思決定要因である「観光地の魅力度」、「交通アクセシビリティ」、「余暇時間と経済的状況」の定量分析の可能性と、そのためのヒアリング調査やアンケート調査の具体的な質問設計について検討した。 1.文化遺産(種類により被害状況も異なるためここでは文化財建造物に限る)の修復は特殊技能者および特定部材への依頼度が高く、莫大な費用と時間を要する場合がある。これらの特徴を考えながら、国指定・登録文化財を有する全国の1,203社寺に対しアンケート調査を実施し、文化財の修復費用の定量分析を行うための、被災経験、これまでの防災対策、また修復にかかる費用などを明らかにした。 2.観光産業施設の被害について、具体的な被害事例に基づき詳しいデータを集めるために、2016年4月に発生した熊本地震を対象に、熊本県内の観光関連施設950社へのアンケート調査を実施し、ストックの被害と修復費用、観光客数の回復状況の実態を把握した。熊本地震による観光業のストックの被害の定量化については、現在データ分析中である。 3.自然災害の影響による「観光地の魅力度」の変化を明らかにするためには、観光客に対する調査により、平常時と被災後の観光地に対する観光意思の変化を精査する必要があり、この調査については次年度前半に実施する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、将来に発生する災害リスクに備え、観光業の被害を定量的に把握する手法を提案するものであり、そのためには過去の複数の被害事例における文化遺産の被害、風評、自粛など多様な要因が地域経済にどう影響するかを把握し、参考資料として提示する必要がある。事例対象地である京都市は、過去の数十年間に観光業のストックの被害が発生した災害事例がなく、具体的なストックの被害事例に基づく詳しい情報を収集することができなかった。そのため、他の地域の被害事例を参考にする必要があり、2016年4月に発生した熊本地震による観光業の被害がそのような事例として適宜であると考えた。しかし、地震直後では観光業の回復状況を把握することができないため、地震発生約1年後の2017年3月に観光関連施設へのアンケート調査を実施することにした。そこで、当初計画していたストックの被害の定量分析は、アンケート調査のデータ分析の結果を踏まえた上での、次年度の研究として行うことに研究計画の調整を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降は、本年度の調査結果を踏まえたストックの被害の定量分析を行うとともに、文化遺産の被害、交通インフラの被害、風評など観光業に影響する要因を明確化し、それぞれの影響要因が観光客の消費行動にどう影響するかを、観光客に対する調査により明らかにする。また、地域経済統計や京都市観光調査年報のデータに基づき、観光地の魅力度、交通移動のコスト、観光客の所得と観光消費などの観光客の意思決定要因に基づいた観光需要モデルを開発し、災害前後の観光意思の変化を観光需要モデルに組み込むことで、観光被害の階層的解明モデルを開発する。
|
Causes of Carryover |
年度末にアンケート調査を実施したため、調査票回収分の郵送費用は、会計処理の関係で次年度使用額から執行されることになった。また、調査票の印刷用紙やプリンターのトーナーなどは、所属研究室にあるものを使用したため、当初予定していたアンケート調査表の印刷費用はかからなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
調査票の郵送費以外の次年度使用額は、次年度の熊本地震の継続調査の旅費、および図書の購入に使用する。
|
Research Products
(4 results)