2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K21497
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
大谷 由香 龍谷大学, 文学部, 講師 (50727881)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 俊ジョウ / 戒律 / 円戒 / 南宋 / 南山宗 / 守一 / 妙蓮 |
Outline of Annual Research Achievements |
頻繁な日宋交流によって、中世日本に「禅宗」が伝えられ、両国間で協力しながら教学研鑽が行われたことは、すでによく知られているところである。しかし同様に戒律教義についても、両国が同一の問題意識をもって、研究を進めていたことは、これまでほとんど語られることがなかった。 本研究の目的は日宋両国が体験した戒律思想の共同発展の具体的な内容について明らかにすることにある。 今年度は特に入宋僧俊ジョウ(1166~1227、ジョウは草冠に仍)が、入宋中に宋僧たちに回覧した質問状とその回答集である『律宗問答』に着目し、日宋両国間にそれぞれどのような戒律理解が存在していたのかを中心として研究を遂行した。成果として[1]「入宋僧俊ジョウを発端とした日宋間「円宗戒体」論争」(『日本仏教綜合研究』14、2016)、[2]「入宋僧俊ジョウと南都戒律復興運動」(『印度学仏教学研究』65-2、2017)、[3]「南宋代南山宗論義と日本」(『仏教の心と文化』、未刊)を出すことができた。 結果として、大きく以下のことが明らかになった。(A)入宋僧俊ジョウは、留学前に日本で継承した日本天台独自の「円戒」の思想を宋僧に披露しており、留学中には妥当な反論を得ることがなかったこと[1]、(B)俊ジョウの問いに触発され、南宋南山宗僧の守一(1182~1254頃)が、大きく南山宗義を転換する意見を出していたこと[1][2][3]、(C)守一の主張を危険視した妙蓮(1182~1262)が反論を出し、南宋南山宗内で論争が起こったこと[3]、(D)留学中に宋国で批判されなかった俊ジョウは、帰国後に「円戒」による受戒で僧侶を生成し、それが南都に波及したこと[2]、の4点である。 これらの成果により、日本僧俊ジョウが発端となり、日宋両国間における戒律解釈が、それぞれに大きく変化したことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで日本国内でのみ独自の発展を遂げたと考えられていた日本天台の円戒思想が、俊ジョウというフィルターを通して、日宋両国間に多大な影響を与えていたことが明らかになったことは、予測できていなかった大きな成果であった。今後この成果に基づいて、研究が計画以上に進展する可能性が大きい。 一方で、そうした思想の読解作業に時間をとられ、今年度予定していた未翻刻文献の紹介や佚文収集には至らなかった。次年度以降、今年度収集した新資料を含む未翻刻文献を整理し、俊ジョウの伝えた「泉涌寺義」の復元を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
日本僧俊ジョウに感化された宋僧守一の主張については、上記論文[3]においてまとめたが、その守一に反論した妙蓮の主張については、具体的なところが明らかになっていない。日本の南都僧の多くは留学時に妙蓮に師事していることから、妙蓮の主張こそ、南都律宗に影響を与えたものと考えられる。今後この妙蓮の思想と日本仏教の関わりについて探求する必要がある。 ただし現存の妙蓮著作は誤字が多く、非常に読み取りにくい。異写本を検索する必要性があり、今後も各地の寺院調査が必要である。 また同時に、俊ジョウの伝えた「泉涌寺義」は、現在までまとまった形で紹介されることがない。俊ジョウ帰国後の日本仏教の形成を知る上でも、新しい資料の紹介を含め、佚文の収集が不可欠である。
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Causes of Carryover |
予定していた資料複写に関して、該当のものを発見したものの、あまりに大部であることから、次年度に先送りした。このため「その他」に計上される支出が少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度中に発見している資料(東大寺蔵・照遠撰『業疏顕縁抄』全40巻)の複写代として使用する。 本資料は、南北朝期に活躍する唐招提寺僧・照遠による、南山宗祖・道宣の著作であり、「律三大部」のうちの『四分律羯磨疏』の註釈書である。今年度に進めた研究で、照遠は、他の著作上では現在は散逸して残らない南宋南山宗僧・守一の註釈書を多く引用していることが明らかとなった。本資料もまた同様に日本に伝わった南宋代南山宗義の佚文収集の上で重要な文献であると考えられるが、大部のためか、これまで翻刻紹介すらもされていない。 本研究の新規性を担保する必要不可欠の資料である。
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Remarks |
ブログ機能を活用し、妙蓮著作『蓬折箴』『蓬折直弁』を対校し、原文比定と解釈を試みている。
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Research Products
(7 results)