2016 Fiscal Year Research-status Report
非線形統計量を用いた店舗内における消費者購買行動の幾何学的モデリング
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16K21504
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
金子 雄太 関西大学, ソシオネットワーク戦略研究機構, PD (40770300)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 顧客動線データ / フラクタル次元 / t検定 / 消費者購買行動モデル / ロジスティック回帰 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、RFIDを使って収集した小売業の店内顧客動線データから動線の幾何構造の特徴を表す非線形統計量を算出し、消費者の購買と顧客動線の幾何構造との関係を明らかにする消費者購買行動のモデルを構築することである。本年度は動線の幾何形状の複雑さを象徴する指標としてフラクタル次元に注目し、フラクタル次元を説明変数とする購買行動のモデル化を行った。顧客動線研究では、クラスタリングやTSP、ベイジアンネットワークなど数々の数理アルゴリズムの導入が既に提案され、優れた分析手法として有効性が確認されているが、顧客動線の幾何構造については着目されておらず十分な検討がされているとは言い難い。小売店舗は売場レイアウトという明確な空間構造を持ち、時間帯によって各売場への顧客の訪問も変わってくるため、時空間的な幾何構造の解明は売場レイアウトの最適化を考慮する上で、学術的及び実務的にも重要な意義を持つものと考えられる。 平成28年度は分析対象を顧客1,000人に絞りそれぞれの顧客動線のフラクタル次元を求め、顧客を次元の中央値で2つのグループに分割し、売上やバスケットサイズとの関係性をt検定で調べた。また各売場での購買の有無に対して、ロジスティック回帰のモデルを構築しフラクタル次元の有効性を検証した。結果として、フラクタル次元の高い顧客グループは売上、売場滞在時間、バスケットサイズ、売場訪問数のいずれも高くなる傾向にあることを発見した。またモデルの分析から野菜や鮮魚、精肉といった素材の売場ではフラクタル次元が有意に購買に影響を及ぼすことを明らかにした。次年度以降は分析対象の顧客数をさらに拡大し、非線形統計量を顧客の購買行動の複雑性を表す普遍的な指標として確立するべくモデルに組み込むことを計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は顧客動線の可視化システムの開発と非線形統計量の算出、モデルの開発に取り組んだ。可視化システムについては、従来の2次元マップの可視化に加え、時間軸の表示も可能にした3次元の可視化を新たにシステムに実装した。システムには動線の表示を2次元と3次元で選択できるオプションを追加した。非線形統計量については、顧客1,000人を対象にそれぞれのフラクタル次元を算出し、基礎的な統計量の確認を行った。さらにフラクタル次元の近い集団同士の性質を明らかにするために、Median-splitで顧客集団を二つの群に分け、t検定でマーケティング戦略に重要な指標との関連性を調べた。結果として、売上やバスケットサイズといった重要なマーケティング指標は、次元の高い顧客群とより強く関連していることが明らかとなった。そしてロジスティック回帰で顧客の購買行動を分析した結果、野菜、鮮魚、精肉の商品カテゴリーではフラクタル次元が高くなるほど顧客は商品を購入しやすくなることがわかった。野菜、鮮魚、精肉といった素材を購入する主婦層に対しては、商品の陳列や告知を工夫するなどして、売場巡回を促す経営施策が有効と考えられる。このように平成28年度は顧客動線の幾何構造を考察する上で基礎となる重要な研究成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
複数顧客の非線形統計量を導出するアルゴリズムの開発を進める。フラクタル次元については、現状では2次元マップ上に動線を描画した後、一人ずつボックスカウント法で算出する計算方法を採用している。しかしこの場合、数千から数万人規模の複数顧客に対しては、データ処理の人的負荷が大きい。負荷を低減し作業を効率化するため、一連の計算を大規模データ処理システム「MUSASHI」を使い自動化させるためのアルゴリズムを開発する。そして、より大規模の顧客群について非線形統計量を算出し、その分布を調べる。また売場レイアウトとも比較し顧客が快適に買い物できるレイアウトの検討を行う。購買行動モデルについては、非線形統計量を組み込んだ動的計量行動モデルの構築を目指す。
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Causes of Carryover |
国際会議の参加費と計算機購入費用の調整分として差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国内研究者との打合せ費用として使用する。
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