2017 Fiscal Year Research-status Report
癌悪液質に対する新規運動プログラムの開発と筋量減少に関連するバイオマーカーの探索
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16K21517
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Research Institution | Osaka Health Science University |
Principal Investigator |
田中 稔 大阪保健医療大学, 大阪保健医療大学 保健医療学部, 講師 (00735508)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 癌悪液質 / 筋量減少 / 運動効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
癌患者では病状の進行に伴って、急激な筋量減少を特徴とする悪液質を発症し、身体活動量が著しく低下する。そのため、癌患者の悪液質状態における筋量減少の予防は治療・加療後の身体機能の回復促進に重要な意義を有している。一方、運動は筋量減少予防に有効であるが、十分な運動効果を得るには運動強度を高くする必要がある。しかし、癌悪液質では、高強度運動が悪液質を増悪させる可能性も考えられる。そこで、本課題では、癌悪液質に伴う筋量減少に対して、有効な運動強度を明確にすることを目的とする。また、筋量減少の予防効果に関係するバイオマーカーを探索するとともに、作用機序の解明を行う。 平成29年度は、癌悪液質モデルラットに対して全身運動を実施し、癌悪液質による筋量減少メカニズムおよびマイオカインの変化について解析を実施した。5週齢の雄性Wistarラットを用い、腹水肝癌細胞(AH-130)を腹腔内注射することにより胆癌を誘発した。細胞接種後9日間のトレッドミルによる全身運動を実施した後に、骨格筋(腓腹筋・足底筋・ヒラメ筋)および血液を摘出した。悪液質の状態は張力計を用いた把持力および体重減少量(体重と腹水量の差により算出)により確認した。その後、摘出した組織からELISAにより各種サイトカインとマイオカインおよびWestern blot法やRT-PCR法により筋タンパク質分解系・合成系因子(mTOR関連因子、FoxO、ユビキチン-プロテアソーム系指標)を解析し、それらを指標として全身運動の効果判定を実施した。上記の解析結果は、今後計画している筋量減少に対する有効な運動強度を設定する際の根拠とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、5週齢のWistarラットを用い、腹水肝癌細胞を腹腔内注射することにより癌悪液質モデルラットを作成し、モデルラットに対してトレッドミルによる全身運動を実施することで、癌悪液質による筋量減少に対する抑制効果およびマイオカインの変化を解析した。腹腔内投与してから9日間の全身運動を実施後、下腿後面の骨格筋および血液を摘出した。摘出した組織からELISAにより各種サイトカインとマイオカインおよびWestern blot法やRT-PCR法により筋タンパク質分解・合成系因子を解析し、それらを指標として運動効果の判定を行った。筋量に関しては、筋量減少が惹起された。全身性運動により、筋量減少の抑制効果が認められた。筋タンパク質分解系の変化は筋特異的ユビキチンリガーゼ(Atrogin-1、MuRF1)を指標とした。その結果、悪液質により各指標は有意に増加しており、筋タンパク質分解系が筋量減少に関連していることが示唆された。一方で、運動により各指標に対する抑制効果を示した。筋タンパク質合成系は、p70S6Kのリン酸化を指標とした。その結果、悪液質により有意な低下を示し、筋量減少に関連していることが示唆された。一方で、運動によりp70S6Kリン酸化低下の抑制効果を示した。以上の結果から、癌悪液質による筋量減少には筋タンパク質分解系の亢進および筋タンパク質合成系の活性低下が関与していることが示唆された。一方で、全身運動により筋タンパク質分解系の亢進抑制および筋タンパク質合成系の活性低下に対する抑制効果を示したことから、全身運動は癌悪液質に伴う筋量減少の抑制に効果的であること示唆された。 上記結果から、昨年度の目標としていた実験・解析項目はほぼ解析が終了しており、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
全身運動は、トレッドミル走行により実施する。運動強度および期間は平成29年度の結果に基づき決定する。その後決定した運動期間における低強度と高強度運動の運動効果を検証する。運動強度は先行研究(Lira et al., Appl Physiol Nutr Metab, 2014; White et al., Am J Physiol Endocrinol Metab, 2013)を参考に、運動群には週5日、10m/min(低強度)・18m/min(高強度)の速度で30分間の走行を計画している。各運動強度における運動効果の検証は、形態学的評価およびELISAにより炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)、マイオカイン(IL-15)を調べ(positiveコントロール:IL-10)、それらを指標として効果判定を行う。
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Causes of Carryover |
購入物品の納品が年度末までに間に合わず、次年度に入荷した。入荷が次年度になったことに伴い支払が年度内にできなかったため。
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