2016 Fiscal Year Research-status Report
外傷性ストレスの深刻化・慢性化の予防を目指した心理学的プログラムの開発
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16K21520
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
大澤 香織 甲南大学, 文学部, 准教授 (30462790)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 予防的心理教育 / トラウマの記憶想起 / セルフ・エフィカシー / 対処可能感 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,トラウマの記憶想起に焦点をあてて外傷性ストレスの維持・悪化の予防をはかる心理学的プログラムを,トラウマに遭遇するリスクが高い「トラウマ体験ハイリスク群」と「一般市民」に向けて開発し,それぞれの効果を明らかにすることを目的とする。具体的には,トラウマ体験ハイリスク群に向けた「外傷性ストレス予防プログラム」の開発を目的とする【研究1】,一般市民に向けた「外傷性ストレス支援者講習プログラム」の開発を目的とする【研究2】を設定し,各々の効果を検証する。 当該年度は,主に【研究1】を実施した。研究協力に同意が得られた一般大学生を対象に,プログラムを実施する「介入群(34名)」と介入群とほぼ同時期に効果測定のみを行う「統制群(31名)」に配置した。プログラムは,研究代表者の所属大学内で週1回(60~70分程度),集団形式で行われた。内容は,トラウマの記憶想起に関する講義(1回)と想起した際の対処スキルワーク(1回)で構成された。プログラム実施1週間前と実施直後に効果測定を行い,プログラム終了1ヶ月後にフォローアップ調査を行った。 その結果,プログラム終了直後にトラウマの記憶想起に対する対処可能感(セルフ・エフィカシー)は高まったものの,実施1ヶ月後にはプログラム実施前と同程度となることが明らかにされた。この要因を明らかにするため,在外研究期間中(2016年9月~2017年3月)にトラウマ関連疾患の予防に取り組んでいる国外の研究者たちに協力を要請し,【研究2】も含めたプログラムの内容や実施方法,アセスメントツールの再検討等を試みた。その成果については,次年度以降に検証を行う。 当該年度の試みは,より効果的なトラウマティック・ストレスの予防的介入の提供を可能にすべく,本研究課題を進めていく上で重要な役割を果たすと考えられ,その意義は大きいと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では,当該年度中に予定されていた研究代表者の在外研究期間に入る前に,【研究1】のみならず【研究2】の研究参加者も募集し,プログラムの実践と長期フォローアップを行う予定であった。研究代表者が所属する大学内の組織からの協力を得て,学外に【研究2】の研究参加者の募集・確保を試みたが,研究代表者が国内不在であることが影響し,当該年度中に達成することはできなかった。次年度は再び学内組織の協力を得ながら,学内外から広く研究参加者を募集することを試みる。 また,当該年度では学内に向けて研究協力を要請し,【研究1】のプログラムを試行することはできた。しかし,研究代表者の在外研究期間中は事務アルバイトの雇用が不可能であったことも影響し,長期フォローアップを実施する環境を整えるまでに至らなかった。この点についても,改めて長期フォローアップを実施できる環境整備を行い,その上で効果の検証を試みていく。 進捗状況としては当初の計画よりも遅れてはいるが,研究代表者の在外研究期間を有効に活用し,トラウマの記憶想起によって引き起こされる心理的問題の慢性化を防ぐ上で有用・有効な介入プログラムの構成や実施方法等を再検討することができた。これは今後,本研究課題を進めていく中で重要な役割を果たすと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
再度,研究代表者が所属する大学内組織の協力を得ながら,学内外に広く研究参加者を募集し,【研究1】【研究2】のいずれにも多くの人が参加できるように,さらなる環境整備を行う。具体的には,学内組織(地域連携センター,人間科学研究所)と共催での実施,プログラムの遠隔実施(e-learningシステムや東京のキャンパスとつなげたサテライト講義,オンラインによる介入など)に利用できる施設やツールの試行などを検討する。 参加者募集の結果によっては,統制群としてWaiting List Control群を設置できない場合も考えられる。その場合は,当該年度のように介入群と同時期に効果測定を行い,その後にプログラムの資料(紙媒体,映像など)を配布し,その効果検証も併せて行う等の対応を行う。フォローアップ期間についても,当該年度においてプログラム実施1ヵ月後のフォローアップ調査への参加率があまり良くなかったことから,長期になればなるほど研究協力者側の協力が得られにくくなることが予想されるため,期間の再考も検討する。
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Causes of Carryover |
前年度は研究代表者の在外研究期間と重なり,特に学外での研究実施が困難であったことから,研究代表者の交通費・宿泊費,参加者や研究協力者への謝金にかかる支出がほとんどなかった。それに加え,学外向けの広告掲載費,長期フォローアップに使用予定であった郵送代についても,ほとんど使用しなかったことが主な理由と考えられる。また,在外研究期間中は事務アルバイトの雇用ができなかったことも,次年度使用額が発生したことに影響したと考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度では主に,学外からの参加者を積極的に募集し,多くの人が研究に参加できる環境整備を行う予定である。そのために必要な経費として,次年度使用額を使用する。具体的には,学外向けの広告掲載費,遠隔地(東京キャンパス等)での実施に伴う研究代表者や研究協力者の交通費・宿泊費などにあてる。併せて,研究に参加しやすい環境整備の一環として,オンラインでの研究参加に要する経費(サイト開設等)に次年度使用額を使用することも計画している。
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Research Products
(2 results)