2017 Fiscal Year Research-status Report
極域海洋における海氷生成・融解に伴う鉄輸送プロセスとその変動機構
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16K21586
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
中野渡 拓也 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 特任研究員 (20400012)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 北太平洋亜寒帯 / 低次生態系モデル / 鉄サイクル / リン酸塩 / 経年変動 / 沿岸捕捉流 / 海氷 / 親潮 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、これまで整備した中解像度の海氷・海洋結合低次生態系モデルを用いて、北太平洋亜寒帯における鉄の季節変動シミュレーションを行った結果を学術論文として取りまとめた[Nakanowatari et al. 2017]。また、リン酸塩の経年変動に関する数値シミュレーションを行い、親潮海域で取得されているA-Lineの表層栄養塩の観測データに類似した季節から数年規模の変動が定性的に再現されていることを確認した。この表層栄養塩の経年変動の要因を明らかにするために、混合層内のリン酸塩濃度の収支解析を行った結果、冬季のリン酸塩の増加は、主にローカルな鉛直混合と水平移流で説明されることがわかった。さらに、冬季のリン酸塩濃度の経年変動は、クリル海峡周辺に存在する高いリン酸塩濃度の水塊輸送で説明され、その流量はオホーツク海のサハリン沿岸で形成される沿岸捕捉流のリモートな影響が関係していた。 一方で、昨年度実施できなかった海氷の生成・融解に伴う鉄の取り込みプロセスの実装は完了し、モデルのチューニングを実施中である。この海氷鉄モデルに基づいた標準実験、および予備解析の結果、海氷鉄を考慮するとオホーツク海南部や北海道沿岸域において数パーセントの基礎生産量が増加することが分かった。一方で、この基礎生産量の変化は、海氷に直接取り込まれるセジメントフラックスの値の大きさに大きく依存することがわかった。 高解像度鉄モデルに関しては、北太平洋縁辺海における溶存鉄の境界条件の整備、及び鉄の凝集プロセスに関するパラメーターの最適化を実施した。また、経年変動実験を実施するための大気強制データとして、ヨーロッパ中期予報センターの大気再解析データ(1979-2017)の取得と整備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年は、昨年度実施予定であった中解像度の鉄モデルを用いた季節変動実験の解析結果を学術論文として取りまとめた。親潮海域におけるリン酸塩の経年変動に関する研究については、その数値シミュレーションの実験結果を解析し、その要因を定量的に明らかにすることができた。ただし、こちらの研究結果については、本年中に学会などでの発表にまで至ることができなかった。 また、昨年度実施予定であった海氷の生成・融解に伴う鉄の取り込みプロセスを海氷・海洋結合低次生態系モデルに実装することは完了した。さらに、標準実験、及び直接海氷に取り込まれるセジメントフラックスの量についての感度実験を実施することができた。 一方で、高解像度北太平洋モデルを用いた経年変動実験については、物理場だけでなく表層の溶存鉄濃度の基本場の再現性を向上させる必要があったため、経年変動実験を実施する準備段階の状況に留まっている。特に、物理場に関しては北太平洋亜寒帯域における海面塩分が高いバイアスが生じているため、潮汐混合や海面塩分緩和に関する感度実験を実施する必要があった。また、鉄モデルに関しても、北太平洋縁辺海である日本海やベーリング海からの堆積物由来の鉄フラックスの影響が大きく、北太平洋亜寒帯域は著しく鉄濃度が高いバイアスが生じていた。そのため、表層鉄の凝集項のチューニングに加えて、北太平洋縁辺海からの堆積物起源の鉄フラックスの補正のための感度実験を実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、第一に昨年度実施した中解像度モデルを用いた経年変動実験の解析結果について、国内外の学会で発表するとともに、学術論文として取りまとめる作業を行う。また、海氷鉄モデルについては、北海道大学・低温科学研究所の西岡純氏(准教授)から提供を受けたオホーツク海の夏季の溶存鉄データに基づいて、海氷鉄モデルの整備をさらに進める。また、海氷鉄プロセスを実装した場合としない場合において、オホーツク海やその周辺域における基礎生産量に対するインパクトについてのプロセス研究を実施する。また、鉄の供給源(ダスト、陸棚、そして海氷)に関する感度実験を行うことによって、氷縁域における鉄輸送の主要なソース源を明らかにする。 高解像度モデルについては、昨年度整備した北太平洋高解像度モデルを用いて、大気強制データを用いた経年変動実験を実施する。この実験では、大気強制データを経年的に変化させることに加えて、大気のダストフラックスの経年変化や潮汐混合の18.6年周期変動も考慮することによって、北太平洋亜寒帯の栄養塩にみられる10年規模変動の要因を定量的に明らかにする。また、北極海の海氷融解プロセスと基礎生産量の関係については、国際共同研究加速基金による研究課題としてノルウェーのナンセン環境リモートセンシング研究センター(NERSC)のLaurent Bertino氏と共同で進める方針である。この研究課題では、NERSCの開発した北極海の海氷・海洋結合データ同化システムを用いるため、物質循環に関する基礎研究のみならず、海氷や基礎生産量の短期から中・長期までの予測可能性についても明らかになることが期待される。
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Causes of Carryover |
昨年度は、高解像度モデルを用いた経年変動実験の実施が不十分であったこともあり、国内の学会発表分の旅費の一部が執行できなかった。今年度は、中解像度鉄モデルの経年変動実験の研究成果の発表のため、国内で開催される日本地球惑星科学連合の2018年大会の参加費として執行する予定である。
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[Journal Article] Hydrographic observations by instrumented marine mammals in the Sea of Okhotsk2017
Author(s)
3.Nakanowatari, T., K. I. Ohshima, V. Mensah, Y. Mitani, K. Hattori, M. Kobayashi, F. Roquet, Y. Sakurai, H. Mitsudera, and M. Wakatsuchi
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Journal Title
Polar Science
Volume: 13
Pages: 56-65
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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