2017 Fiscal Year Research-status Report
青銅器時代バルカン半島における土器の生産と流通・移動:「都市化」の問題に関連して
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16K21589
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Research Institution | Ancient Orient Museum |
Principal Investigator |
千本 真生 (財)古代オリエント博物館, 研究部, 共同研究員 (10772105)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 土器生産・流通 / バルカン半島 / ブルガリア / 青銅器時代 / 胎土分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、前期青銅器時代のブルガリア南部(上トラキア平野)における土器生産と流通のあり方を明らかにし、西アジアに端を発する「都市化」の影響について検証することを目的とする。 本年度は昨年度に引き続き、東海大学隊が発掘したデャドヴォ遺跡の前期青銅器時代集落から出土した土器の調査を行った。現地で収蔵資料の観察を行い、製作技術、器形、装飾に関する属性の記録を収集し、定量的に分析を進めた。また、デャドヴォ遺跡の収蔵資料から新たに炭化試料を抽出し、国内機関で放射性炭素年代測定を行った。 昨年度、分析用に日本へ郵送したセドラリ・グラディンカ遺跡(ブルガリア南東部)の土器資料の図化と写真撮影を行い、胎土分析を実施した。さらに同遺跡から出土している外来系の赤色スリップ土器とビセル遺跡の資料を現地で追加調査し、図化と写真撮影を行った。 比較資料を得るために、ブルガリア北部と西部の3遺跡とトルコ中央部のキュルテペ遺跡の出土資料を観察、写真撮影し、記録を収集した。また、上記したブルガリアの三遺跡とデャドヴォ遺跡から得た試料の放射性炭素年代をもとに編年研究を行った。 デャドヴォ遺跡の土器型式学的特徴とその年代をブルガリアの他地域のデータと比較したところ、デャドヴォ遺跡では前期青銅器時代終末段階に該当する資料が確認されなかったこと、西ブルガリアで青銅器時代の前期から中期にかけての年代を示すデータが得られた。特にブルガリアでは中期青銅器時代に関する記録が非常に希薄であることから、今回の調査によって得られた成果の意義は大きい。また、西アジアに由来すると想定されていた赤色スリップ土器の胎土分析を実施したところ、在地系の土器と類似した特徴を示していることが明らかになり、当資料が直接製品としてブルガリア南東部に搬入されていなかった可能性が出てきた点は、両地域の流通のあり方を検討する上で重要なデータが得られたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デャドヴォ遺跡では昨年度に引き続き、現地で収蔵されている前期青銅器時代土器の定量的なデータを収集した。ただし、現地の博物館の事情で補助員の確保についてサポートが得られなかった。そのため、デャドヴォ遺跡の資料全てのデータ収集を完遂することができなかった点は、計画の進捗状況はやや遅れているといえる。しかし、その代替策として、平成30年度に計画していたアナトリアとブルガリアの他地域での資料調査を一年前倒しで行うことができたことから、全体の進捗状況としては計画の範囲内にあると判断した。 ブルガリア南東部に位置する二遺跡の土器を対象に、型式学的分析と胎土分析を計画通り実施した。上トラキア平野北東部に位置するデャドヴォ遺跡のデータ収集はまだ完了していないものの、現時点で得られているデータを用いて、同北東部と南東部の資料を比較し、両地域にみられる土器の地域性と移動に関する検討も計画に沿って進めることができた。 胎土分析は、岩石学的分析に関しては前年度に引き続き依頼して実施した。本年度は土器の製作技術を検討するため、新たに材料工学的な分析に着手した。化学的分析に関しては新しい研究環境を整備して分析の実施に向けて準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は本研究計画最終年度に当たることから、計画していた研究内容を全て完遂させ、成果を統合する予定である。①デャドヴォ遺跡で未着手の資料調査を完了させる。②胎土分析に関しては、一部未着手の資料を対象に、岩石学的手法を用いた分析を行う。化学的手法を用いた分析については、全資料を分析することは困難であるため、外来系の赤色スリップ土器に対象を絞って分析を実施する。③アナトリアとエーゲ海域で資料調査を実施する。とりわけ、これらの地域における赤色スリップ土器の出現と変遷を明らかにする。④ブルガリア前期青銅器時代における土器生産と流通について成果をまとめる。 平成30年度には現地調査を夏季と春季に二度ほど実施する予定である。デャドヴォ遺跡の資料調査は現地の博物館と連携して進める。アナトリアとエーゲ海域の資料調査に関しては、赤色スリップ土器を所蔵するイスタンブル、クルクラレリ、エスキシェヒル、キオス島、レスボス島などの博物館をはじめとする研究機関を訪れ、データを収集する予定である。また、10月にブルガリアで開催される国際学会で、これまでに得た成果の一部を公表する。
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