2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K21608
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
上杉 龍士 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター, 主任研究員 (10423005)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | コナガ / 長距離移動 / 流跡線解析 / 長距離移動 / 飛翔行動 / フェロモントラップ |
Outline of Annual Research Achievements |
1)コナガの飛行持続時間の推定:風洞の中でコナガ成虫を針金で吊るし風を送り、疑似的に気流中の受動的飛行状態を再現し観察可能な実験を行った。平成29年度は、飛翔行動における気流の影響を調査するために、コナガ成虫に対して追い風(尾部への風)および向かい風(頭部への風)の中での持続的な羽ばたき行動を観察した。その結果、2方向の風に対してコナガが異なる反応をすることが分かった。つまり、追い風に対しては、ほぼすべての個体が実験開始時から持続的な羽ばたき(60秒観察中50秒以上の羽ばたき)を行った。羽ばたき持続時間は、半数の個体で24時間を超えた。一方で、向かい風に対しては、実験開始時からすべての個体で羽ばたきは断続的(60秒観察中10秒以下の羽ばたき)であった。また、向かい風においた個体のうち数匹は、実験開始後2~3日経て持続的な羽ばたきを開始した。以上の結果から、コナガの持続的な羽ばたき行動の開始条件には、生理状態または環境による「キュー」が存在し、そのキューとして最も有力なものの1つが気流の方向(尾部への風)である可能性が示唆された。コナガの羽ばたき行動における気流方向に対する応答性は、気流による長距離移動を行うために進化させた生態である可能性がある。 2)HYSPLITを用いた流跡線解析によるコナガの長距離移動実態の把握:これまでの調査および実験によって、コナガの飛行行動は日没後深夜にかけて活発になること、飛行持続時間は24時間程度あることが分かった。以上の情報をもとにして、2017年4月~5月のGDAS気流データを使い、コナガ非越冬地である盛岡を終点とした後方流跡線解析を行った。その結果、盛岡へのコナガ飛来源として関東以西の日本国内が有力であった。また、長距離飛来が成功する際には、中国東北部に弱い低気圧が複数位置するという特徴的な天気図がみられることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コナガの飛翔行動観察実験とフェロモントラップによる発生消長データの収集については予定通りに結果を得ることができた。次のステップとして、得られた動画データ及びトラップ捕殺数のデータについて、HYSPLITを用いた流跡線解析に活用できるように整理し、統計解析を行う必要がある。これらのデータは、個人では整理しきれないほどの量があり、研究補助員による研究支援が欠かせない。しかし、任期付き研究職からパーマネント研究職への移行に伴い職場が移動したために、新しい研究室での実験系の再構築と研究補助員による支援のための調整に時間を要した。平成29年度末までに研究体制を整えたので、平成30年度については、データ整理や統計解析は順調に進捗すると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1)コナガの気流中での受動的飛行行動の傾向を明確にするために、風洞におけるコナガの羽ばたき行動の動画データを数値に変換し、統計解析を行う。まず、流跡線解析における重要要素である羽ばたき行動の持続時間における個体間の統計的ばらつきの解析を行い、コナガ個体群が気流に乗って長距離移動可能な時間を推定する。また、昨年度に明らかになった気流の方向(追い風と向かい風)が羽ばたきの持続的行動に与える影響についての統計解析を行う。 2)日本各地・各年のコナガの長距離飛来時期を推定するために、日本各地から収集したコナガのフェロモントラップによる発生消長のデータについての解析を行う。その際、コナガの捕殺数と相関がある夜温の影響を取り除くために一般化線形モデルを用いた解析を行う。 3)コナガの非越冬地域(北日本)への飛来時期となると考えられる過去10年分の3月~6月の気流データを用いて、流跡線解析によってコナガの飛来コースを推定する。まず、時間ごとの流跡線を算出したのちにそれらをクラスタ化する。それら流跡線クラスタの中で飛来が成功したと考えられるものを抽出し、それが生じる時期を推定する。推定された平井成功時期について、フェロモントラップの捕殺ピークとの関連性を検証する。また、その時期に見られる特徴的な天気図を検証する。また、中国や東南アジアなども仮想的な起点として前方流跡線解析を行い、大陸からの飛来についてもシミュレートする。流跡線はGDAS1による全地球3D気流データをもとにHYSPLITを用いて計算する。
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Causes of Carryover |
生じた次年度使用額は、契約職員による研究支援(データ整理)を要請するための研究室内での調整が遅れたので、人件費の支出を一部見合わせたために発生した残額である。次年度使用残額73,538円は、契約職員による研究支援(データ整理)等、次年度に申請する金額と併せて、研究計画遂行のために使用する。
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Research Products
(5 results)