2016 Fiscal Year Research-status Report
荷電性残基の揺らぎを考慮することで達成される変性温度150℃の蛋白質の創製
Project/Area Number |
16K21618
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
松浦 祥悟 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学総合研究センター, リサーチアソシエイト (50513462)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | バイオテクノロジー / 蛋白質の安定化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、先行実験の結果得られた、熱可逆性が良好に改善されたEcCutA1疎水性変異型Ec0VV(EcCutA1 C16A/C39A/C79A/S11V/E61V; 変性温度:Td =115℃)を鋳型蛋白質とし、荷電残基導入によって熱安定化を試みた。 既に立体構造が解かれているEc0SH(EcCutA1 C16A/C39A/C79A)変異型の構造データを用い、欠損しているN末端領域とS11V/E61V変異をモデリングすることでEc0VV変異型の構造を取得した。取得した構造を用いて各種蛋白質熱安定化予測プログラムあるいは2次構造等を考慮することで、熱安定性が増加する変異型の予測を行った。また、蛋白質分子における荷電残基の挙動を検証するために、鋳型であるEc0VV変異型に関して、分子動力学(Molecular Dinamycs: MD)シミュレーションを行った。MDシミュレーションはGROMACSを使用し、300Kで平衡に至るまで(40 nano-sec程度)行った。 予測されたEc0VV変異型を順次作製し、熱安定性を評価した結果、Ec0VV H72K(+5.2℃), Ec0VV E57R(+4.9℃), Ec0VV T88R(+4.4℃), Ec0VV Q87K(+3.6℃), Ec0VV S82K(+3.7℃)など熱安定性が増加した変異型が数多く取得された。また、熱安定性が増加した変異型に関して組み合わせた多重変異型を作製したところ、Ec0VV Q87K/T88RでTd が+9.2℃、Ec0VV H72K/Q87K/T88R変異型で+14.3℃、Ec0VV H72K/S82K/Q87K/T88R変異型で+18.3℃程度増加した。さらに、Ec0VV A39D/S48K/H72K/S82K/Q87K/T88R (Ec0VV6)変異型ではTd =136.8℃(+23.6℃)であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、変性温度(Td)が約90℃である大腸菌由来CutA1(EcCutA1)の熱安定性をアミノ酸置換によって、超好熱菌Pyrococcus horikoshii由来CutA1(PhCutA1)のTd (150℃)まで増加させることを目標としている。先行実験の結果得られた、熱可逆性が良好に改善され、野生型からTd が23℃増加したEcCutA1疎水性変異型Ec0VV(EcCutA1 C16A/C39A/C79A/ S11V/E61V; Td =115℃)を鋳型蛋白質とし、主に荷電残基を導入することで蛋白質の熱安定化を試みている。 現時点において、熱安定性が増加した荷電残基一残基導入型を数多く得ることに成功しており、これらの変異を組み合わせた多重変異型においても熱安定性が顕著に増加していた。現時点で最も熱安定性の高いEc0VV A39D/S48K/H72K/S82K/Q87K/T88R(Ec0VV6)変異型ではTd が136.8℃である。これは鋳型蛋白質Ec0VV変異型と比較して+23.6℃、野生型EcCutA1よりも+47℃程度Td を改善したこととなる。つまり、Ec0VV6のTdをさらに14℃程度増加させることが出来れば、目標であるTd =150℃まで到達する。また、鋳型である疎水性変異型Ec0VVに関して、MD実験が40nsec程度まで終了した。現在、熱安定性が増加した各変異型について、MD実験を順次進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
Ec0VV変異型に関して、熱安定性増加が予測された候補について、熱安定性を評価していない変異型が数多く残っている。平成29年度以降も引き続き、各変異型の調製及び安定性評価を行っていく。変異導入によって実際に熱安定化した変異型については、順次MD実験を進めていくことで、導入した荷電残基の挙動がどのように変化するかを調べる予定である。進捗状況の項でも記載した通り、現時点で最も熱安定性の高いEc0VV A39D/S48K/H72K/S82K/Q87K/T88R(Ec0VV6)変異型ではTd =136.8℃であるため、Ec0VV6のTd をさらに13℃程度増加させることが出来れば目標である150℃まで到達する。一残基変異導入によって熱安定性が増加した変異型に関して、Ec0VV6に組み入れていない変異型も多く存在しているので、Ec0VV6にさらに変異導入を組み合わせていくことによってTd =150℃の蛋白質の創製を目指す。また、顕著な熱安定性を保持する多重変異型についても同様にMDを行うことで、導入した複数の荷電残基がどのような挙動を示し、熱安定性向上に寄与しているかを調べる。
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Causes of Carryover |
本研究では、荷電性残基の揺らぎを考慮した蛋白質の熱安定化戦略の構築と実証を目指すために、Ec0VV変異型の調製及び安定性評価を網羅的に行うことが必要である。そのため、まず律速段階となる変異型調製方法の検討を行ったが、その確立に時間を要したため、熱安定性を評価できた変異型が本年度予定していたよりも少なくなった。当初想定していたよりも熱安定性が増加した変異型の割合が高かったため、鋳型蛋白質Ec0VVの熱安定化は計画通りに実現できているが、安定性評価を行う予定の一残基変異型が現時点で数多く残っている。平成29年度以降は、前述した一残基変異型だけではなく、それらの組み合わせを考慮した多重変異型に関しても熱安定性を評価する必要があり、変異型の候補数が膨大になるため、次年度繰越予算はその変異型調製及び安定性評価に充てる予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Ec0VV変異型調製のための試薬、及び、安定性評価のための示差走査熱量測定計(Differential scanning calorimetry:DSC)の消耗品などに使用する予定である。また、MD計算を行う候補となる変異型が想定よりも多くなった場合は新たな計算機の導入も視野に入れている。
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