2017 Fiscal Year Research-status Report
荷電性残基の揺らぎを考慮することで達成される変性温度150℃の蛋白質の創製
Project/Area Number |
16K21618
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
松浦 祥悟 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学総合研究センター, リサーチアソシエイト (50513462)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 蛋白質工学 / 蛋白質の熱安定性 / 超好熱菌 / 静電的相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度得られたEc0VV6変異型(Td=136.8℃(+23.6℃))に荷電残基を導入することで更なる熱安定化を試みた。一残基導入で変性温度が増加したE34R(+2.5℃), E57R(+4.9℃), S110R(+4.1℃)をEc0VV6変異型に導入したところ、Ec0VV_6 E57R(+23.6℃) ではTdが変化せず、Ec0VV_6 E34R(+20.6℃) とEc0VV_6 S110R(+22.1℃)においてはEc0VV_6よりも不安定化した。一方、Q25R, T101E, N108Kの3変異に関しては、Ec0VV_6へ導入すると熱安定性は増加した。Ec0VV_6 T101EではTdが+26.1℃、Ec0VV_6 Q25R/T101EではTdが+27.1℃、Ec0VV_6 Q25R/T101E/N108E(Ec0VV_9)ではTdが+29.0℃増加した。 また、Ec0VV_6において導入した6つの荷電残基について、どの荷電残基とイオン対を形成(もしくは反発)しているかをMD実験(40 nsec)の結果より検証した。Ec0VV_A39D一残基変異型では静電相互作用が著しく低下し熱安定性も低下するが、Ec0VV _A39D/S48K二重変異型では新たに導入したAsp39-Lys48同士がイオン対を形成し、静電相互作用を獲得することで熱安定化していることが示唆された。Ec0VV_6変異型においても、Asp39-Lys48イオン対形成による静電相互作用増加が示唆された。H72K一残基変異型では、C末端(Arg112)とのイオン対形成が示唆され、Ec0VV_6においてもこのイオン対による静電相互作用は保持されていた。S82K, Q87K, T88R変異導入のいずれの場合でも、一残基変異型の場合と同様にEc0VV_6においても静電相互作用増加に寄与していることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、変性温度(Td)が約90℃である大腸菌由来CutA1(EcCutA1)の熱安定性をアミノ酸置換によって、超好熱菌Pyrococcus horikoshii由来CutA1(PhCutA1)のTd (150℃)程度まで増加させることを目標としている。鋳型蛋白質として、EcCutA1疎水性変異型(Ec0VV: EcCutA1 C16A/C39A/C79A/S11V/E61V Td =115℃)を用いており、現時点において最も高い熱安定性を保持するEc0VV9変異型(Ec0VV_Q25R/A39D/S48K/H72K/S82K/Q87K/T88R/T101E/N108E)のTdは142.2℃である。これは鋳型蛋白質Ec0VV変異型と比較して+29.0℃、野生型EcCutA1よりも+52℃程度Tdを改善したことになる。現在までに蛋白質調製及び熱安定性評価を行った変異型は100種類程度あり、その過程で得られた上述のEc0VV9変異型に関しては、PhCutA1に匹敵する熱安定性を達成できた。 また、本研究では分子動力学 (MD)シミュレーションにより得られた荷電残基の揺らぎ情報を蛋白質の熱安定化に応用することも目指している。現在、熱安定性が増加した各変異型について、MD実験を順次進めているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
進捗状況の項でも述べたように、各変異型の蛋白質試料調製及び熱安定性評価に関しては順調に進んでおり、荷電残基を導入することによってPhCutA1の変性温度(Td =150℃)に匹敵する熱安定性を保持する蛋白質の作製に成功したといえる。また、MD実験に関しては、変異導入によって実際に熱安定化した変異型について、引き続き進めていくことで導入した荷電残基の挙動がどのように変化するかを検証する。今後は、得られた変異型の熱安定性評価とMD実験の結果をまとめることによって、荷電残基導入による蛋白質熱安定化指針を確立することを目指す。
|
Causes of Carryover |
今年度は、変異型の安定性評価を網羅的に行った。昨年度から繰り越した予算も合わせて使用することで、円滑に安定性評価を行うことができた。なお、昨年度繰り越し金額が多かったため、今年度も少額ではあるが次年度使用額が生じた。次年度繰越予算については、各種実験に関連した試薬・消耗品類の購入に加えて、論文報告に向けた英語論文校正依頼、掲載費等にも充てる予定である。
|