2016 Fiscal Year Research-status Report
表面吸着単一分子系の電気伝導特性・発光特性に現れる電子相関効果の定量解析
Project/Area Number |
16K21623
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
三輪 邦之 国立研究開発法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 訪問研究員 (60734390)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡発光 / 光物性 / 電荷輸送 / 電子相関 / 分子発光 / 非平衡Green関数法 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子が電極表面に弱く吸着した系では、分子軌道を占める電子間に強いクーロン相互作用が働き、電気伝導特性や光学特性に顕著な「電子相関効果」が現れる。本研究では、電極表面に弱く吸着した単一分子に対する、走査トンネル顕微鏡(STM)観察およびSTMのトンネル電流に誘起される発光(STM発光)観察に関する理論を構築する。系の電気伝導特性および発光特性を、量子多体論の観点から定量解析できる理論手法を構築し、分子軌道のエネルギー位置や電子相関がこれらの物性に与える影響を解明する。今年度は、孤立分子の多体状態を基底にし、分子軌道と金属の電子状態の間の結合を摂動として取り扱う理論手法を用いて、単一分子の電気伝導特性および光学特性を調べる理論を構築した。本手法では、分子軌道を占める電子間に働くクーロン相互作用を厳密に取り入れることができるため、これらの物性に現れる電子相関効果の記述に適している。さらに密度汎関数理論に基づく第一原理計算を用いて、分子軌道のエネルギー位置や電子間クーロン相互作用の大きさ、基板の誘電特性を解析した。そん結果をもとに、必要なパラメータ値を決定し、理論手法の定量性を向上させた。その結果、単一分子からのSTM発光において顕著な励起子効果が発現しうることを解明し、その効果を実験実証可能であることを明らかにした。また、電流雑音に現れる電子相関効果を明らかにした。これらの成果をもとに現在論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に沿って、非平衡 Green関数法を用い、単一分子からのSTM発光の理論構築を進めることができた。ここでは分子軌道を占める電子間クーロン相互作用Uおよび分子と金属の電子状態の混成Γを含んだ有効模型を用いて、理論の構築を行なった。また密度関数理論に基づく第一原理計算を用いた理論解析により、有効模型に必要なパラメータの抽出を行い、定量性を向上させることができた。電流-電圧特性や発光特性の計算結果を、近年得られた実験結果と比較し、これらの物性に電子間相互作用の影響が見られることを解明できた。これらの成果をまとめた科学論文を現在執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
有限の電圧が印加された非平衡状態での電子ダイナミクスを解析可能な「非平衡Green関数法」を用い、電流-電圧スペクトルおよび発光スペクトルを計算する。これまで申請者は量子多体論の観点から発光スペクトルを解析する計算コードを開発している。本計算コードを拡張し、電流-電圧スペクトルの計算を可能にするプログラムを実装し、 量子多体論の観点から電気伝導特性および光学特性を定量解析できる理論手法が得られる。電流―電圧スペクトルおよび発光スペクトルの形状やそれらの特徴が、試料の材料や構造、分子配向によりどのように変わるのかを明らかにし、系統的な知見を得る。
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Research Products
(5 results)