2016 Fiscal Year Research-status Report
高速1分子イメージングによる核膜孔局所におけるERK輸送機構の解明
Project/Area Number |
16K21625
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
毛利 一成 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, 基礎科学特別研究員 (00567513)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 3次元1分子計測 / MAPKシグナル伝達 / 拡散係数計測 / 絶対濃度定量 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般に、細胞は、細胞外からの刺激に対して応答するかしないかという2値的な反応を示す。すなわち、細胞内シグナル伝達過程において、細胞外刺激というアナログ入力が、デジタル的な応答へと変換される。細胞内シグナル伝達のモデル系として研究が進んでいるEGFの系では、EGF濃度に対して細胞内シグナル伝達の鍵となる酵素ERKのリン酸化レベルはアナログ的に応答するのに対して、ERKの核移行レベルはヒル係数が高いことが知られており、この現象はERK基質リン酸化阻害剤や核膜孔タンパクに対するsiRNAにより抑制されたため、核膜孔タンパクやERK基質リン酸化がEGFのアナログ刺激をデジタル応答へと変換する細胞レベルでのスイッチとなっている可能性が示唆されてきた。その分子機構として、アロステリック効果による協同性など核移行過程における非線形プロセスが想定されるが、EGF刺激後には複数のシグナル伝達経路が活性化し、フィードバックが働くため、核移行の素過程の定量的速度論解析が必須となる。そこで本年度は(1)生細胞内のERK分子濃度・拡散係数の推定手法の開発と、(2)核膜孔を通過するERKの3次元1分子計測手法の開発を行った。前者の開発により既存手法に比べて安価な装置を用いて細胞内の局所的な領域における正確な分子濃度や拡散係数を広範囲で同時に推定することができるようになり、後者の開発により生細胞の核膜孔におけるERK分子の通過現象の素過程を高速にとらえることが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞内分子濃度・拡散係数計測にはFCSが利用されているが、高価な装置が必要となるため、汎用の共焦点顕微鏡画像の自己相関関数を計算することで、同様の情報を引き出すRICS(Raster image correlation spectroscopy)が開発されてきた。しかし、RICSは細胞や細胞内小器官の動きの影響を受けやすく、定量的な計測に適用することは困難であることが研究の過程で明らかとなった。そこで我々は、FCSおよびRICSの原理に立ち返り、共焦点顕微鏡画像の撮影条件を最適化し、RICSで培った信号処理技術を用いて自己相関関数をより正確に計算できる手法を新たに開発した。これによりin vitroでpM-uMオーダーの分子濃度が検出できるようになり、生細胞の動きの影響でよく見られる長波長のゆらぎ成分(トレンド成分)を除去した計測が可能になった。 さらに全反射顕微鏡を用いて2次元の核膜上で観察されていたERKの1分子動態を核膜孔の表裏で3次元観察するため、2焦点光学系を組み合わせた。これにより核膜孔の細胞質側・核質側のERKを同時にmsオーダーでライブイメージングすることに成功し、移行の瞬間をとらえたことを示唆する結果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに開発した定量化技術に加え、入出力関係を精度よくコントロールすることは複雑なシグナル伝達経路の影響をできるだけ減らし、ERKの核膜孔通過現象に的を絞った実験を行う上で重要である。すでに我々は人工タンパク質を用いてRaf-MEK-ERKのリン酸化経路のみをtamoxifenを用いて継続的に活性化させる実験系の構築に成功しており、この系をさらに発展させるため最近開発された光遺伝学的手法を用いてMEK活性を瞬時にon-off制御する系の構築を試みている。 このように実験系と計測系の技術開発とその精度の改善に努めつつ、ERKの核膜孔に対するon/off rate、通過頻度、それらに対するERKの濃度依存性などのパラメータを推定し核膜孔周辺で起こるERKの物理化学的現象を定量化する。
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Remarks |
理化学研究所2016年度基礎科学・国際特別研究員の成果発表会において、本研究の一部を発表しポスター賞(生物分野)を受賞した。
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