2018 Fiscal Year Research-status Report
日本近代動物学初期に収集された哺乳類学標本の内容と行方
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16K21638
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Research Institution | Natural History Museum and Institute, Chiba |
Principal Investigator |
下稲葉 さやか 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (00761545)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 哺乳類学 / 自然史標本 / 科学史 / 博物館学 |
Outline of Annual Research Achievements |
明治・大正期から戦前にかけて、東京大学理学部動物学教室(以下、東大・動物)で収集された哺乳類標本は、分類学的に重要なタイプ標本を含み、当時の動物相を理解するうえで貴重な標本であり、日本の哺乳類学史を解明するうえでの一級の資料である。しかし、標本の内容や現在の保管状況は、ほとんど分かっていない。平成30年度の本研究では、前年度までに調査した哺乳類学標本に関する標本、文献等の調査結果をまとめ、文献からおこしたリストの情報整理、国内外の博物館での標本の保管状況の実地調査を行い、その結果をまとめ、公表する予定であった。 これまで調査した標本、文献の資料をもとに、明治・大正期から戦前までの哺乳類学史に関して、哺乳類学者である黒田長禮、岸田久吉の業績を中心に論文としてまとめた。この中で、東大・動物の標本が一度黒田家へ移管され、それらが国立科学博物館に寄贈されたこと、ロンドン自然史博物館と黒田長禮が標本を交換したこと、その中にタイプ標本が含まれていたことなどにふれ、戦前の哺乳類標本が現在まで保存された背景に、黒田長禮による標本の収集・整理保存が重要な役割を果たしてきたことを紹介した。 平成29年度に行ったロンドン自然史博物館の調査結果を整理し、日本哺乳類学会で発表した。1354点の実物標本とラベル記載情報、実物未調査標本を含む1885点の台帳の情報をまとめ、19世紀後半には東大・動物と交流のあった外国人標本商(A. Owstonなど)や、20世紀初頭には東大に在籍したことのある日本人研究者(佐々木忠次郎、黒田長禮など)がロンドン自然史博物館とへ標本を寄贈または交換していること、これらが現存していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は、東京大学理学部動物学教室の哺乳類学標本に関する標本、文献等の調査結果をまとめ、文献からおこしたリストの情報整理、国内外の博物館での標本の保管状況の実地調査を行い、その結果の一部をまとめ公表する予定であった。 昨年度から引き続き行っている標本情報の文献からの収集は、昨年度と同様に調査対象とした図鑑等から、アルバイトの助力も得て、効率的な情報収集が行われた。その結果、当初の想定より、文献から得られる標本の情報は少ないことが判明した。当初予定していた標本の現地調査に関しては、アメリカでの現地調査ができなかった。自身が所属する博物館業務が想定外の時期に入り、アメリカへの渡航予定時期と重なったためである。以上より、資料調査に関しては、当初の想定より進捗が遅れることとなった。 昨年度のロンドン自然史博物館での標本、台帳、2次資料の調査により、当初の想定以上の情報が得られたため、これまでの調査結果とあわせて情報を整理し、学会発表を行った。これまで蓄積してきた文献情報から一定の情報が得られたため、標本を通してみる当時の哺乳類学の歴史に関して、その一部を論文として発表した。結果の公表に関しては、おおむね予定通りの進捗となった。
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Strategy for Future Research Activity |
文献調査による哺乳類標本リストをまとめ、国立科学博物館をはじめ、これまで得られた明治・大正期から戦前の哺乳類標本のリストを作成し、情報の整理と公表を継続する。インターネット上にある、国外の標本データベースの調査を継続し、戦前の日本人研究者が標本交換をしたと文献情報から推測されるアメリカの博物館で、標本の状況を把握するための現地調査を行う。これまで蓄積した情報から、明治・大正期から戦前に収集された哺乳類標本の現状に関してまとめ、公表する。
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Causes of Carryover |
今年度に予定していたアメリカでの現地調査ができなかったため、その分の旅費が使用できず、次年度使用額が生じた。自身が主担当を務める令和元年度企画展に関する博物館業務が想定外の時期に入り、アメリカにおける調査の予定時期と重なって、渡航できなかったためである。 次年度の使用計画に関しては、使用額のほぼ全額を、アメリカへの渡航旅費とする予定である。アメリカでは、博物館等施設で、日本人研究者が戦前に交換した哺乳類標本の現状を把握するための現地調査を行う。
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Research Products
(2 results)