2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K21642
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
黒田 拓也 国立医薬品食品衛生研究所, 再生・細胞医療製品部, 研究員 (70648857)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | iPS細胞 / 網膜色素上皮細胞 / 不死化細胞 / 造腫瘍性細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、体細胞へ特定の遺伝子(山中4因子など)を導入することにより、あらゆる細胞へ分化できる多分化能と無限に増殖できる自己複製能を併せ持つ細胞である。その特徴から、再生医療への応用が期待されているヒトiPS細胞由来移植細胞の安全性において最も懸念される問題は、移植細胞の腫瘍化である。移植細胞が腫瘍化する原因として、(1)未分化細胞の残存、(2)形質転換細胞によるコンタミネーション、(3)製造工程中または、移植後における形質転換細胞の発生が考えられる。そこで我々は製品中に含まれる形質転換細胞を検出するため、すべてのがん細胞に共通する形質の一つである「不死化」に着目し、ヒトiPS細胞由来移植細胞に混入する不死化細胞検出法の開発を行ってきた。これまでに網膜色素上皮(RPE)細胞をモデルとして、不死化RPE細胞マーカーIRM1(Immortalized RPE cell marker 1)遺伝子を同定し、IRM1 mRNAをqRT-PCRで測定することにより不死化RPE細胞を迅速に検出する試験法を開発している。IRM1は卵巣がん組織においても有意に高発現していることが報告されており、不死化と機能的に関与している可能性が予想される。しかしながら、IRM1がどのようなメカニズムで不死化と関連しているのかは、不明のままである。本研究の目的は、不死化RPE細胞におけるIRM1の機能を明らかにし、RPE細胞の不死化メカニズムを明らかにすることである。まず初めに、不死化RPE細胞株においてIRM1のノックアウト株を作成し、不死化への影響を調べることを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
IRM1は卵巣がん組織でも有意に高発現していることが近年報告されている(Sharmila et al. Cancer Res., 70, p4809-4819, 2010)。このことから、IRM1がRPE以外の細胞、組織においても不死化と関連している可能性が高いと考えられる。そこで、TissueScan Cancer and Normal Tissue cDNA Array(Origene)と呼ばれるcDNAのキットを用いてIRM1のがん組織における発現量を網羅的に調べ、RPE細胞以外の細胞における、不死化細胞マーカーとして汎用性を検証した。その結果、IRM1は18種類のガン組織のうち、卵巣ガンを含む5種類のがん組織(子宮頸部、結腸、肺、卵巣、および精巣)において、各正常組織と比べ有意に発現が上昇していることとが分かった。 また、IRM1が不死化に機能的に関与している事を調べるため、Zinc Finger Nuclease (ZFN)技術によるゲノム編集を用いて不死化RPE細胞IRM1をノックアウトし、不死化能への影響を、細胞増殖、細胞周期、テロメラーゼ活性において検証する事を試みた。その結果、IRM1のKO株を複数クローン得ることに成功した。そのうちの1株において、細胞増殖の遅延が観察された。しかしながら、IRM1の再導入によりレスキュー効果を確認した所、細胞の成育に回復が見られなかったことから、このIRM1 KO株の成育欠損は、オフターゲット効果が原因であること可能性が高いことが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
IRM1タンパク質はこれまでの研究で、骨格筋細胞に高く発現し筋収縮に関与していることが報告されている。しかし、これまでにIRM1と不死化との関連性は全く明らかにされていない。従って、不死化RPE細胞におけるIRM1タンパク質は骨格筋細胞とは異なるタンパク質と相互作用している可能性が予想される。そこで、不死化RPE細胞にレンチウィルスを用いてFLAGタグ付きIRM1タンパク質を発現させ、FLAG抗体を用いてプルダウンアッセイ、LC-MS/MS解析を行うことによりIRM1の結合タンパク質を同定する。すでに骨格筋細胞において報告されている結合タンパク質とは異なる新規結合タンパク質は、不死化と機能的に関連がある可能性が高いと考えられる。新規結合タンパク質についても、ノックアウト細胞、過剰発現細胞の解析を行うことにより、RPE細胞における不死化のメカニズムを明らかにする。また、IRM1の発現調節のメカニズムを調べる。染色体上のIRM1上流にはCpGアイランドが存在していることを、ゲノムデータベースを用いることにより確認している。CpGアイランドにおけるDNAメチル化は、ほとんど全ての種類のがんの発達において極めて重要な役割を果たしていることが知られている(Jaenisch R, et al., Nat. Genet. 2003)。そこで、バイサルファイトシーケンスを行うことにより、正常RPE細胞と不死化RPE細胞におけるIRM1上流のCpGアイランドにおけるDNAメチル化の比較を行い、エピジェネティックな発現調節の可能性を検討する。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた試薬が製造中止となり、購入を取り止めたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費として、試薬の購入のために使用する。
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Research Products
(1 results)