2016 Fiscal Year Research-status Report
日本の精神病床入院システムの実証研究と政策科学研究―歴史的アーカイブズ構築と共に
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16K21662
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
後藤 基行 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 特別研究員(PD) (70722396)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 精神医療 / 精神衛生法 / 医療扶助入院 / 在院期間 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究企画は、精神病床への入院期間に有意に影響を与える要素として、医療費支払区分があることを実証することを一つの目標にしており、方法として歴史的疫学資料の個票を利用して検証する計画であった。 そのため、まずもって歴史的な一次資料のアーカイブズ整備とデータ入力が前提となっていたが、平成28年度内においてこうした作業は、1956年に行われた在院精神障害者の疫学調査に関してはそのほとんどが完了し、現在分析と論文執筆を行っている段階に到達した。 1956年調査個票の分析の予備的な結果として、社会保険入院と比べて医療扶助入院(生活保護入院)の在院期間は有意に長いことが明らかとなった(統合失調症で10~14か月ほど、躁うつ病で6~8か月ほど、てんかんで18~22か月ほど)。 この結果、1956年時点で、精神疾患の程度や介助の必要度を考慮してもなお、社会保険入院よりも医療扶助入院のほうが入院期間は長いことが判明し、新生活保護法(1950年)から5、6年足らずで、すでに「医療扶助入院による長期入院」の傾向が観察された。 その他、戦後国立武蔵療養所の1970年代初頭までの診療録のデジタル化作業も完了させ、貴重な医学史資料の長期保存の体制と共に、研究利用する際の大幅な効率化が達成された。これは戦中期の傷痍軍人武蔵療養所に関する研究を引き継ぐものであり、これにより武蔵療養所診療録に関連するアーカイブズ整備は完了に近づいたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アーカイブズ整備とデータ入力に一部の遅れが出ているほか、論文執筆が平成28年中に完了しなかったことによる。ただし、これの一因としては、データ入力項件数を多めに設定したことが大きく関係しており、早さよりも質的充実を重視したことがある。また、論文共同執筆者の所属移転に伴う時間制約などの外部要因等も存在した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、まず1956年の在院疫学調査資料に関連する論文発表が第一優先課題となる。次いで、1950年代、60年代に行われた精神障害者患者調査の疫学個票のアーカイブズ整備を遂行するなど、研究条件を整えていき、実際の分析を行うところまでいくのが望ましい。 また、戦後の国立武蔵療養所の診療録に関する質的分析を行い、医療費支払別に在院期間に有意差が生じる原因について考察する。同研究については分析上の方法論の洗練が必須であるが、それをクリアしたうえで研究論文の執筆を行いたい。
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Causes of Carryover |
最大の理由は、謝金にかかる経費の支出に関連するものであり、当初この謝金は貴重な医学資料のアーカイブズ整備費用を見込んでいたものであった。しかし、この業務が代表者の所属機関の事業として一部行われることとなったため、同機関の研究費によって代替されることとなり、同費目に対する科研費の支出が抑えられることとなった。これと同様に、購入予定だった物品費などについても所属機関の研究費によって賄われたことが原因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度以降については、アーカイブズ整備の方針について再検討を行い、本研究プロジェクトの計画段階で想定したよりも量と質を増大させ、とりわけデータ入力対象数を大幅に増やしたい。これは研究に協力してくれるRAの人数がどれだけ確保できるかに左右されるが、データ入力項目が増やされることで研究アウトプットに際するデータの信頼性の向上が期待できる。
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