2016 Fiscal Year Research-status Report
〈社会的養護の家庭化〉に関する研究:日本とイタリアの比較から
Project/Area Number |
16K21684
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Research Institution | National Institute of Population and Social Security Research |
Principal Investigator |
藤間 公太 国立社会保障・人口問題研究所, 社会保障応用分析研究部, 研究員 (60755916)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 家族社会学 / 福祉社会学 / 社会的養護 / 国際比較 / 質的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度となる平成28年度は、当初の計画通り文献調査を行うとともに、次年度以降の調査設計を行った。のみならず、計画を前倒しして国内児童相談所職員へのインタビュー調査を行うことができた。調査からは、日本国内における〈社会的養護の家庭化〉が進まない背景に、「家族であること」、「親であること」を理由とした里親への支援の未整備状況と、その結果としての里親家庭への養育負担の集中があることへの、児童相談所職員の懸念があることが示唆された。 この知見の意義は2点ある。第1に、社会学領域への学術的貢献である。従来、児童相談所についての研究は、当該領域では手薄であった。本年度の研究成果は、児童相談所職員へのインタビュー調査を通じて、日本において〈社会的養護の家庭化〉が進まない背景に家族主義の問題があるという、従来の里親研究(安藤 2017など)の知見にも通ずる仮説を導出し、社会的養護に関する社会学的研究の可能性を押し広げた点に意義がある。 第2に、政策的含意である。日本における里親推進施策の論理が家族の理想化を根拠としていたことは申請者のこれまでの研究から明らかになっているとおりであるが、そうした政策レベルでの家族の理想化こそが、逆説的に里親推進を阻んでいることが本年度の成果から明らかになったといえる。このことは、いかに政策的議論が家族を相対化し、科学的知見にもとづく検証を積み重ねていくか、という次なる論点につながるものである。 以上のように、本年度の研究成果は、社会学的にも政策的にも意義があるものである。中間成果はすでに学会報告や論文、書籍という形で発表されているが、今後は、研究計画通りイタリアとの国際比較を行うことで、本年度の成果から導出された仮説を検証していくことが必要となる。なお、計画にはなかったが、ISSPデータを用いた家族意識、家族生活の国際比較をすでに今年度実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画を前倒しして8名の職員へのインタビュー調査を実施することができた。その成果は上述の通りである。インタビューシナリオが十分に固まらなかったためインノチェンティ捨児養育院関係者へのメールインタビューは実施できなかったものの、研究協力者との打ち合わせは予定通り進行しており、平成29年度の実地調査は予定通り行える見込みである。 また、当初の計画にはなかったことであるが、次年度以降の作業仮説を裏づけるべく、福祉レジーム論にもとづく家族意識、家族生活の国際比較研究をISSPデータを用いて実施した。その結果、東アジアは北欧、大陸ヨーロッパ、自由主義諸国に比べて家族主義が強いことや、なかでも日本はケアに対する家族責任を強く問うことが明らかにされた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き国内児童相談所職員へのインタビュー調査を行うとともに、イタリアでの調査を実施する。そのデータの検討を通し、(1)平成28年度成果の再検討を行うこと、(2)平成30年度調査で明らかにすべき論点を焦点化すること、の2点が今後必要な作業となる。
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