2017 Fiscal Year Research-status Report
放射光X線を用いた微生物産生多糖エステルにおける結晶形成機構の解明
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16K21712
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
加部 泰三 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (00768864)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 多糖エステル / 放射光X線 / X線同時測定 / 繊維 / カードラン / β1,3グルカン / リアルタイム測定 / 球晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、微生物が生産するバイオマスの一種であるβ1,3グルカンに着目した。β1,3グルカンは多糖類の一種であり、食品添加物として大量に生産されているが、熱可塑性を有していないためプラスチックとしての利用がなされていなかった。近年、β1,3グルカンの水酸基を容易にエステルに置換したβ1,3グルカンエステルの合成が報告され、樹脂としての利用が検討されている。 β1,3グルカンエステルのなかでもβ1,3グルカンプロピオネートは、結晶性の樹脂であり、高い融点と透明性を有していることなどから材料化が期待されるポリマーであるが、研究報告は多くない。 β1,3グルカンプロピオネートの結晶化挙動に注目すると興味深い点がいくつかある。(1)主鎖が剛直な多糖で形成されているにもかかわらず、等温結晶化により球晶構造を示す。さらに、このときの結晶化速度は非常に遅い。(2)熱延伸や溶融紡糸などのずりのかかる過程において結晶化は即時に完了し、このときに形成される結晶の配高度は非常に高い。結晶化速度や結晶化挙動の情報は、材料化において必要不可欠である。そこで、本研究では、放射光X線を用いて、(1)カードラン球晶の構造および形成機構の解明、および(2)溶融紡糸過程における結晶化挙動の観察を目的とした。また、これらの情報を基に、材料化として、繊維の作成を目指す。 本年度は、(1)放射光X線を用いた球晶の観察を目的として、偏光顕微鏡X線同時観察測定法のための装置を再設計し、製作と実験を行った。この結果、偏光顕微鏡像とX線回折測定を同時に行うことが可能となった。また、(2)溶融紡糸装置をビームラインに持ち込み、溶融紡糸過程における吐出ダイ内部の観察および吐出後の繊維の観察を行うことに成功した。吐出ダイ内部の観察については「X線測定用のダイヤモンド窓を備えた特注ダイ」を設計し、作成したものを用いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に、大量合成したβ1,3グルカンプロピオネートを用いて実験を行った。昨年度、(1)のような球晶形成の原因を明らかにするために行う、「偏光顕微鏡X線同時測定」環境の構築を行った結果、偏光像が明瞭に取得できない問題が見つかった。このため、試料ホルダー周辺の再設計を行った結果、明瞭な偏光顕微鏡像を取得し、同時に広角X線測定を行う環境が構築することができた。現在、観察可能なサイズのβ1,3グルカンプロピオネート球晶を調整し、測定を行っている。また、(2)溶融紡糸過程の結晶化挙動の観察について、「X線測定用のダイヤモンド窓を備えた特注ダイ」を設計・作製し、実験を行った結果、ダイ内部および吐出直後の繊維の観察を行うことができた。この結果、β1,3グルカンプロピオネートの溶融紡糸過程における結晶形成初期過程の観察に成功した。現在、これらの結果について解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに、β1,3グルカンプロピオネートにおける、(1)球晶形成機構の解明、および(2)溶融紡糸過程の結晶形成過程の観察について、それぞれの実験環境を整備し、実験を行うことが可能になった。本年度は実験データの取得、解析を進め、成果をまとめる。 具体的には、(1)球晶の調整条件と形態観察を行い、これらの試料についてX線回折および散乱実験を行い、球晶内部における結晶の高次構造を解明する。この際、X線のビームサイズが球晶よりも十分小さい必要があるため、放射光X線を屈折レンズで収束したμビームを使用する予定である。(2)については溶融紡糸過程における結晶形成初期過程の観察に成功している。一方で結晶形成を議論する場合、溶融上程におけるレオロジー的な情報や、吐出直後における繊維の温度などが必要である。前者についてはキャピロレオメータあるいはせん断粘度計での測定を行う予定である。後者について、紡糸過程の糸は直接接触での温度測定が難しいため、赤外線温度計の使用を検討している。
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Causes of Carryover |
当初、予定していた溶融紡糸装置用特注ダイが再設計を行った結果、割安になった。また、ダイヤモンド窓は、予定したよりも破損が少なく、ダイヤモンド窓を発注していた業者が、最少小売数量を上げてきたため購入を控えた。 本年度は、前年度に購入しなかった予備のダイヤモンド窓の購入、および、実験によって判明した溶融紡糸用特注ダイの問題を解決する追加工などに使用する予定である。
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Research Products
(3 results)