2016 Fiscal Year Research-status Report
アミロスフェロイドによる内皮eNOS活性の抑制機構解明を目指した研究
Project/Area Number |
16K21713
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Research Institution | Foundation for Biomedical Research and Innovation |
Principal Investigator |
笹原 智也 公益財団法人先端医療振興財団, その他部局等, 研究員(研究員・PDクラス) (30735345)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アミロイドβタンパク / 血管内皮 / eNOS / アミロスフェロイド / 一酸化窒素 / 血管機能障害 / 脳血管アミロイド血症 / Na+/K+-ATPase |
Outline of Annual Research Achievements |
脳血管アミロイド血症はアミロイドβタンパクが脳微小血管内腔に沈着する病気である。本研究対象であるアミロイドβアセンブリー「アミロスフェロイド(ASPD)」はアルツハイマー病患者の脳内に蓄積することは報告されているが、脳血管内腔に沈着するかは明らかにされていない。そこでまず脳血管アミロイド血症が認められた患者死後脳の組織切片を用いてASPD抗体による組織免疫染色を実施した。その結果脳血管内腔にASPDの沈着が認められた。 本研究では内皮細胞に特異的に発現する内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)に注目し、ASPDによってeNOS活性がどの様に影響されるかを解明した。最初にラット胸部大動脈から血管リング標本を作成し、ASPD処置がeNOS活性に依存した血管弛緩能に影響するかを検討した。その結果ASPD処置血管リング標本ではカルバコールによる血管弛緩反応が抑制された。ASPDがどの様にして血管弛緩反応を抑制するかを明らかにするために、培養脳微小血管内皮細胞を用いてeNOS活性を測定すると、ASPDは内皮細胞からのNO遊離を抑制し、この細胞では非活性型(Thr495)のeNOSリン酸化体量が増加していた。次にASPDによる非活性型eNOSリン酸化体量増加の細胞内シグナル伝達経路を各種阻害薬やsiRNA法を用いて検討すると、Na+/K+-ATPaseα3サブユニット/プロテインキナーゼC経路が関与することが明らかとなった。 平成28年度の研究ではASPDがヒトの脳微小血管に沈着し、Na+/K+-ATPaseα3サブユニット/プロテインキナーゼC経路を介して不活性化型eNOSリン酸化体量を増加することで、血管弛緩能が障害される可能性を示唆する結果が得られ、以上の研究結果からASPDは脳血管アミロイド血症での血管機能障害の原因の一端となっている可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた平成28年度の実験計画では、1.)ASPDの処置により脳微小血管内皮細胞でeNOSの活性が抑制されるか、2.)ASPDはeNOS活性体をどの様に抑制するのか (eNOSリン酸化体量の変化・活性調節分子との相互作用変化・NOを遊離するeNOS量の変化の3つから評価)、3.)ASPDによるeNOS活性の低下は血管組織レベルで血管弛緩能までをも抑制するか、を明らかにすることを目的としていた。 平成28年度の実験では、培養脳微小血管内皮細胞にASPDを添加することでeNOS活性の指標であるNO遊離量が減少することを明らかにし(計画1. 達成)、このeNOS活性の低下が不活性型(Thr495)のeNOSリン酸化体量増加によることも見いだした(計画2. 一部達成)。さらにはASPDによる内皮細胞でのeNOS活性の低下が、血管組織(血管リング標本)での血管弛緩能を抑制することも明らかにした(計画3. 達成)。加えて平成29年度の実験予定であったASPD受容体の特定と不活性型eNOSリン酸化体量増加の細胞内シグナル伝達経路のそれぞれにNa+/K+-ATPaseα3サブユニットとプロテインキナーゼCが関与することまで明らかにした。 一方でASPDによるeNOS活性の低下に、活性調節分子との相互作用低下が関与するか、NOを遊離するeNOS 2量体が活性酸素種を遊離するeNOS 1量体へ乖離しているか、は明らかにすることができなかった(計画2. 一部未達成)。 以上の研究進捗状況から、平成28年度の研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の平成29年度の研究では脳微小血管由来の内皮細胞を用いてASPDによる不活性化型eNOSリン酸化体量増加の細胞内シグナル伝達経路の詳細を明らかにする。平成28年度の実験ではプロテインキナーゼCの関与まで明らかにすることができたが、そこからさらにASPD受容体Na+/K+-ATPaseα3サブユニットからどの様な細胞内シグナル伝達経路を介してプロテインキナーゼCを活性化するかに焦点をあてて研究を進める。Na+/K+-ATPaseの阻害薬であるウアバインを用いた研究では、ウアバイン処置によりN+/K+-ATPaseから様々な細胞内シグナル伝達系が活性化することが報告されており、Na+/K+-ATPaseからSrcを介した上皮成長因子受容体へのトランスアクティベーションや、NADPHオキシダーゼ活性化による活性酸素種の遊離、細胞内Na+濃度上昇に伴う細胞内Ca2+濃度の上昇などが報告されている。本研究でもまずはこれら細胞内シグナル伝達経路がASPDによるプロテインキナーゼC活性化に関与するかを検討し、ASPDによる不活性型eNOSリン酸化機構の解明に努める。 上記の研究に加え、平成28年度の研究で達成できなかった、ASPDがeNOSとその活性調節分子との相互作用を変化させるか、eNOS 2 量体がeNOS 1量体に乖離するかについても検討し、これら分子機構がASPDによるeNOS活性の抑制にどの様に影響するかを網羅的に検討する。
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Research Products
(1 results)