2017 Fiscal Year Research-status Report
進化経済学と工学をハイブリットする統合ダイナミクスの探求
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16KT0015
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
久保 英夫 北海道大学, 理学研究院, 教授 (50283346)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細田 耕 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (10252610)
セッテパネーラ シモーナ 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40721890)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 発達ロボティクス / 進化経済学 / 力学系 / 即時適応 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、平成29年6月下旬に札幌で開催された国際研究集会 ”Adaptive Motion of Animals and Machines” は研究分担者の細田氏が主催者の一人であり、その研究集会で彼と意見交換を行うとともに、動物やロボットが様々な環境に即時的に適応するメカニズム解明に取り組んでいる多くの研究者と交流することができた。 その様な観点の中で、アリが巣仲間以外のアリと遭遇すると、反射的に攻撃行動に出るような即時適応のメカニズムについて考察した。そのために、生物学者でアリの生体に詳しい神戸大学の尾崎氏と情報交換を行い、アリの触覚中に嗅覚センサーがあり、その一つのユニットが100本の神経細胞の束から成っていて、しかもそれらの神経細胞に散見されるこぶによって神経細胞間の電気的相互作用が生じている可能性があるとの知見を得た。特に興味深いのは、その電気的相互作用によって外部からの小さな刺激はより弱い情報に変換され、逆に、通常とは異なる刺激パターンは強い情報に変換されることにより、明確な意思決定を迅速に行えるようになることが示唆される点である。この複雑な臭覚センサーの数理モデルを神戸大学の大森氏と構築し、その数値シミュレーションを行った。パラメータを上手く調整することで、上述のような機能を持つ数理モデルを得ることができ、アリの即時適応行動のメカニズムを探る第一歩になったと考えている。 また、発達ロボティクスの観点から、機能を発揮しやすい構造に信号による刺激を与え、所望の機能を発現させることについて検討を行った。現時点では、ランダムな刺激をあたえることで、ある程度の機能発現には成功しているが、より高い次元での制御を可能とするために拘束条件付き自己組織化の原理を適用することを検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題のように諸分野の研究者が共同して研究を進める場合には、同じ概念が異なる専門用語で表現されることや、各研究者の背景となる前提知識に大きな差があることから、そうした分野間の壁を丁寧に取り除いていく必要がある。その意味で、上述したような国際研究集会での異分野交流や、京都大学数理解析研究所で開催したRIMS共同研究での勉強会により、問題意識の共有化を図ったことは有意義だったと考えている。 我々は、必要に応じて機能分化し、外部の環境に即時適応するシステムの数理構造の探求を目指している。この様なシステムを内包するロボットアームを構築するには、ヒトの筋骨格に見られるような物理的な拘束に加えて、ヒトと同様に感覚受容器からの情報をフィードバックすることによる制御を行わなければいけない。細田研究室では、これらの条件を満たすようなロボットアームの製作を進めており、その試作品の動作から我々が求めている数理構造の抽出が可能となりつつある。また、拘束条件をある物理量に対する制約として捉えようとする試みも行っている。その制約が何らかの機能を創発することが想定されており、結果的に、対象としている系のメカニズムの解明に寄与するものと考えている。ルール生態系ダイナミクスにおける制御は、評価関数がメタルールを通して評価されることで、評価関数自身が時間発展することで実現されている。この枠組みの中で、メタ認識の創発に関して、連携研究者の西部氏と議論を進めている。 加えて、アリの脳の情報制御と関連して、即時適応に必要な情報の二値化を強化するような数理モデルの構築にも取り組んだ。具体的には、アリの嗅覚は、一つのユニットが100本の神経細胞の束が担っており、各細胞中を伝播する電気信号の様子を非線形性を伴う常微分方程式により記述し、所望の効果を得るためには各細胞間での電気相互作用が重要であるとの知見を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、5月中旬に京都大学数理解析研究所において勉強会を行う。そこで、各研究者の研究の進捗などについて情報を共有し、我々の研究課題の解決に繋げる。また、11月には、生物系の学会の若手の会と合同でチュートリアル的な講演会を企画し、これまでの研究の方向性について検証を行う。既に、アリの臭覚に関する情報処理について研究成果が挙がっているので、それを論文にまとめ、投稿する。 また、複数の振動型力学系を結合する数理モデルにおいて、対象とするシステムが異なる反応を示すユニットに分解されるような結合の仕方を、ルール生態系ダイナミクスの考え方を応用して導く。この試みは福岡工大の山口氏との共同研究により推進する予定である。また、安定的な行動パターンが生成されることを担保するために、同一の刺激に対して定常的な反応が発現するような制御機構についても考察を進める。学習によって即時的な適応が可能となる様子を、例えば、離散モース理論を適用してエネルギー地形を縮約することや、深層的な学習によるエネルギー地形の変形などを用いて、最適なパスを効率よく発見することに対応付けて記述することを試みる。 その一方で、細田研究室でフィードバック機構を有するロボットアームの製作を推し進め、試作したロボットアームを用いて、即時適応を引き起こすのに必要となる基本的な反射のデータを蓄積する。具体的には、速度や張力などのインデックスに関する変分を調べ上げ、それを基にメタルールに対応する拘束条件を推定する。 更に、メタ認識の創発に関して連携研究者の西部氏と進めている議論を集約し、適切な拘束条件の下で、ルール生態系ダイナミクス時間発展の数値シミュレーションを行い、評価関数自身が時間発展することを確認する。これらの課題を克服し、ボトムアップ型の作動原理を確立し、ヒトの行動様式の本質を突くような普遍的数理モデルの構築を目指す。
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Causes of Carryover |
平成29年11月に予定していた合宿形式の勉強会を開催する予定だったが、諸般の事情により実施できなかったこと、また、雇用を予定していた研究員の都合がつかなくなったことが主な理由である。なお、平成30年度には、既に出張や研究集会の開催の目途が立っているため、予定通りの執行を見込んでいる。
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Research Products
(11 results)