2017 Fiscal Year Research-status Report
安心・多収・良食味を実現するサツマイモの地域適応型エンドファイト利用技術の開発
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16KT0032
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
井藤 和人 島根大学, 生物資源科学部, 教授 (20273922)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
門脇 正行 島根大学, 生物資源科学部, 准教授 (00379695)
足立 文彦 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (10335549)
大道 雅之 拓殖大学北海道短期大学, その他部局等, 教授 (20461692)
井上 憲一 島根大学, 生物資源科学部, 教授 (60391398)
城 惣吉 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (20721898)
佐伯 雄一 宮崎大学, 農学部, 教授 (50295200)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | エンドファイト / サツマイモ / 共生 / 食味 |
Outline of Annual Research Achievements |
北海道深川市、島根県松江市、宮崎県宮崎市の各圃場から、それぞれの地点に運搬した土壌を用いて、サツマイモ苗をポット栽培した。栽培期間中に採取した塊根内部の微生物群集を培養法で調べたところ、Proteobacteriaの優占率が相対的に増加し、土壌条件や気候条件による影響に一定の傾向が認められた。一方、非培養法で解析した細菌群集構造では、土壌条件や気候条件による影響は認められず、γ-Proteobacteriaが優占していた。 窒素施肥量がサツマイモの窒素固定に及ぼす影響について、これまで3年間の実験結果から、生育前半の全乾物重と窒素固定率との間には0.1%水準で有意な正の相関関係にあり、窒素固定率と収量との間には1%水準で有意な正の相関関係にあった。この結果から栽培開始時の土壌中窒素濃度が生育初期の生育を促進し、窒素固定の活性化および収量増加につながったことが示唆された。 昨年度選抜したダイズ根粒菌4菌株を供試し、サツマイモ無菌苗への接種試験を行った。サツマイモ苗を根粒菌液に浸漬し、ワグネルポットで61日間栽培したが、生育量に各根粒菌接種区と無接種区間に有意差は認められなかった。 根粒菌を接種したサツマイモの物質生産と窒素固定の温度反応について、窒素固定率は、栽培期間の平均気温にともなって増加し、また、根粒菌を接種することでも向上した。高温な栽培地ではサツマイモの全重、窒素濃度、主茎長などは接種した場合に促進されたが、同化が低下する低温条件では抑制され、根粒菌の接種による負荷の増大が原因であると推定された。 根粒菌接種サツマイモの食味と購入動向調査について、栽培実験から得たサンプルを用いて、24名の被験者に対して実施した。食味評価値は接種サツマイモで有意に高かった。接種生サツマイモの支払意思額は、説明前と説明後で、また、説明後の普通サツマイモとの間で有意な差があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
エンドファイトの栽培条件による影響と地域性の有無の解明について、これまでにサツマイモ塊根中に存在する細菌由来のrRNA遺伝子をPCR増幅するLNAプライマーの設計および反応条件を確立することができた。サツマイモ塊根から抽出したDNAを基に解析された内生菌の微生物群集構造は、同じサンプルから培養法によって得られた結果と異なることを明らかにすることができた。今後は、内生菌群集構造が土壌や栽培条件の影響を受けなかったことについて、サツマイモ苗の内生菌群集構造や栽培期間中の内生菌群集構造の変化について明らかにする。 窒素施肥量がサツマイモの窒素固定に及ぼす影響について、これまでの結果を通して解析することにより、栽培開始時の土壌中窒素濃度と初期生育、窒素固定および収量との関係を明らかにすることができた。一方、単年度毎ではその傾向が見られない場合があり、再検討が必要である。 ダイズ根粒菌の接種がサツマイモ生育に及ぼす効果を確認できなかった。サツマイモの栽培期間がサツマイモの生育や接種した根粒菌の窒素固定に最適な時期ではなかったことが原因の一つと考えられた。今後は、サツマイモの栽培適期に試験を実施し、供試菌株の生育促進効果を検証する。 ダイズ根粒菌が窒素固定と物質生産に及ぼす影響の温度反応については、高温条件で窒素固定と物質生産が促進されることを明らかにできた。今後は、高温がサツマイモの物質生産を向上させたこと、根粒菌の活性の最適温度が高温条件にあることなど原因についてその要因する。 接種したサツマイモの食味評価等のアンケート調査については、得られたサンプル量が少なかったために、調査人数と対象年代が限定されていた。今後は、均質でより多くの接種サツマイモを準備し、調査対象の背景を十分に把握する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
エンドファイトの栽培条件による影響と地域性の有無の解明について、これまでと同様な栽培実験を行い、結果の再現性を確認する。内生菌群集構造が土壌や栽培条件の影響を受けなかったことについて、サツマイモ苗の内生菌群集構造や栽培期間中の内生菌群集構造の変化について明らかにするとともに、由来が異なるサツマイモ苗を同じ土壌で栽培することで、内生菌群集構造に影響する因子を明らかにする。培養法では優占種が分離できない要因について異なる培地条件で検討する。 窒素施肥量がサツマイモの窒素固定に及ぼす影響について、2017年度については乾物生産が著しく低かった要因の一つとて、植え付け時期の遅れが考えられたため、植え付け時期を適切にして、再検討する。さらに、これまでは品種‘ベニアズマ’についての解析を進めているが、近年普及が拡大している‘べにはるか’についても試験結果が蓄積しつつあるので、その解析を行い、窒素固定に関する品種間差異を明らかにする。 ダイズ根粒菌のサツマイモへの接種効果については、本年度と同様の方法で生育促進効果や塊根の生産性向上について検証する。また、サツマイモの生育に対するIAAの影響も評価できるように、IAA産生能を有しない、もしくはIAA分解能を有する根粒菌を用いることで、窒素固定とIAAそれぞれの生育促進効果を解析する。 根粒菌が窒素固定と物質生産に及ぼす影響の温度反応については、高温条件での促進がサツマイモからの糖供給などを増加させたことが原因か、あるいは根粒菌の活性適温が高温にあるのかについて、最適な温度条件とその作用メカニズムについて検討する。 接種したサツマイモの食味評価等のアンケート調査については、均質でより多くの接種サツマイモを準備し、調査対象の背景を十分に把握して実施する。
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Causes of Carryover |
サツマイモ塊根中に存在する細菌由来のrRNA遺伝子をPCR増幅して、次世代シーケンサーにより微生物群集構造を網羅的に解析するためには、解析を外部機関に委託する必要があるが、年度内の納期が困難であったため、使用を次年度に持ち越した。また、DNAの抽出、PCR産物の調製等の実験を収穫後に実施する試料もあり、外部機関への発注までに時間を要したため。
サンプルが調整でき次第、外部委託による解析を実施する。
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