近縁種間の遺伝子循環による次世代植物資源の開発と持続的作物生産力の向上

2018 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 16KT0034
• Research Institution: Saga University
• Principal Investigator: 藤田 大輔 佐賀大学, 農学部, 准教授 (80721274)
• Co-Investigator(Kenkyū-buntansha): 山形 悦透 九州大学, 農学研究院, 特任助教 (00600446) ; 石川 亮 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (70467687) ; 小出 陽平 北海道大学, 農学研究院, 助教 (70712008)
• Project Period (FY): 2016-07-19 – 2020-03-31
• Keywords: イネ / O.glaberrima / ゲノムワイド関連解析 / トビイロウンカ抵抗性 / 出穂性

Outline of Annual Research Achievements

本研究は、4研究機関（大学）の専門分野に従い、（課題１）Oryza glaberrima 150系統のゲノムワイドSNPデータベースの整備　（課題２）ゲノムワイド関連解析による有用形質を支配する遺伝子座（収量構成要素、生物的・非生物的ストレス）の網羅的解析、（課題３）各形質に関する遺伝子座の効果検証と不稔性を回避した植物資源開発、の３つの段階に沿って行っている。
（課題１）として、国際稲研究所で維持されているO. glaberrima 150 系統に関して、全ゲノムの塩基配列解読を行い、ゲノム情報基盤を構築することを目指した。葉からDNAを抽出し、次世代シークエンサーにより、O. glaberrima 19系統に関して、全ゲノム領域の解読を行った。全ゲノムの解読により、検出したSNPの数が劇的に改善された。
（課題２）として、生物的ストレス・非生物的ストレス耐性の特性評価を行った。さらに、収量構成要素関連形質の遺伝子座の網羅的に探索するために、O. glaberrimaの出穂性、穂構造、分げつ数、脱粒性の調査を行った。予備試験として、19系統のSNPデータを用いて、ゲノムワイド連関解析を行い、複数の形質に関して関連する遺伝子座を検出した。また、生物的ストレスの試験として、トビイロウンカ抵抗性を評価したところ、数系統において、強度抵抗性を示した。
（課題３）として、近縁種間の交雑により新しい変異を保有する系統を作出するために、インド型品種Peikuの不稔緩和系統とO. glaberrimaを交雑し、複数の交雑組み合わせにおいてF1種子が得られた。また、ゲノムワイド関連解析により検出された各形質に関する遺伝子座の効果を検証するため、O. glaberrimaとIR64やKD18をそれぞれ交雑したF1に戻し交雑を行い、BC1F1種子を作出した。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

本研究課題は以下の３小課題で構成されており、「やや遅れている。」とした理由は以下の通りである。
（課題１）として、国際稲研究所のジーンバンクで維持されているO. glaberrima 各 150 系統の塩基配列データをもとに、SNPを検出することができた。しかしながら、これらのSNP情報の数や位置情報に偏りがあり、ゲノムワイド関連解析を行うためには、全ゲノムの塩基配列解読の必要性が生じたことが、やや遅れている理由である。
（課題２）として、生物的ストレスの試験に関しては、トビイロウンカ抵抗性の評価を行った。さらに、O. glaberrimaの収量関連形質の調査として、出穂性、穂構造、分げつ性、脱粒性の調査を行っており、課題２に関しては順調に進んでいる。
（課題３）として、ゲノムワイド関連解析により検出された各形質に関する遺伝子座の効果を検証するため、今年度において、O. glaberrimaとIR64やKD18をそれぞれ交雑し、複数の系統において、BC1F1種子が十分に得られなかったことが、やや遅れている理由である。雑種不稔に関する遺伝子座が多く存在するため、交雑後代の種子の確保が難航した。

Strategy for Future Research Activity

本研究課題は以下の３小課題で構成されている。
（課題１）として、国際稲研究所のジーンバンク由来のO.glaberrima150系統に関して、次世代シークエンサーにより、全ゲノムの塩基配列解読を行い、全ゲノムを網羅する SNP を探索し、データセットを作成する。
（課題２）として、O. glaberrimaを用いて、強度加害性を保有するトビイロウンカ抵抗性の評価を行う。また、O. glaberrimaの収量関連形質の調査として、出穂、稈長、穂長、穂数、籾数、種子重量、維管束数などの評価を行う。平成28年度から31年度までに調査した項目に関して、ゲノム関連解析を行い、調査形質に関わる遺伝子領域を網羅的に特定する。
（課題３）として、Peiku不稔緩和系統とO. glaberrimaのBC1F1を作出する。また、インド型品種IR64とO. glaberrimaのF1に、それぞれIR64を戻し交雑し、BC1F1集団の種子を多く確保する。IR64ではF1種子が得にくいことから、KD18とO. glaberrimaを交雑したF1が作出されており、これらのF1にKD18を戻し交雑し、BC1F1集団を作出する。

Causes of Carryover

O.glaberrimaの栽培と収量関連形質評価を最優先に、研究を進めたため、一部の表現型の調査や遺伝子型の調査、ゲノム情報の解読に関する実験ができなかった。それらの実験に必要な試薬・プラスチック製品や解析費用を使用しなかったため、次年度への予算の繰り越しが生じた。また、O.glaberrimaの解析に関して、全ゲノムの塩基配列解読を進めることに方向転換したため、次世代シークエンサーの試薬の費用と解析費用を使用しなかったため、次年度の使用額が生じた。

次年度に繰り越した予算に関しては、害虫抵抗性の評価や遺伝子型の調査に関する実験を実施するため、必要な実験資材、試薬とプラスチック用品の購入に用いる。また、国際稲研究所のO.glaberrimaに関して、高密度の塩基配列情報を得るために、次世代シークエンサーによる全ゲノム情報の解読を行う費用に用いる。