2016 Fiscal Year Research-status Report
慢性紛争下における栄養問題の二重負担:克服の鍵としてのヘルスリテラシー
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16KT0039
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神馬 征峰 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (70196674)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤屋 リカ 慶應義塾大学, 看護医療学部(藤沢), 講師 (40583935)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | ヘルスリテラシー / 学校保健 / 栄養問題の二重負担 / 肥満 / 低栄養 / 紛争地 / パレスチナ / 混合研究法 |
Outline of Annual Research Achievements |
紛争が長期化した社会において求められているのは、紛争を迅速にやめさせる手段だけではない。紛争下であっても、いかによりよく生きることができるかという方法もまた同様に重要である。紛争が長期化するパレスチナにおいて、子どもが今直面している問題の一つに「栄養問題の二重負担」がある。いわゆる肥満と低栄養が同一国や同一共同体の中で同時に存在している状態のことである。本研究は、栄養問題の二重負担が多くの途上国で顕在化している背景を受け、特にパレスチナ自治区のラマッラー行政区域において、長期化する紛争とグローバル化が子どもの栄養状態に与える影響について、比較研究を行う。 加えて、慢性紛争下にあっても栄養問題の二重負担を含む健康上の苦難を克服できるツールとして、健康情報の有効活用を可能とするヘルスリテラシーを測定し、栄養状態との関連を特定することを目指す。 研究初年度である平成28年度には、予定通り、パレスチナ自治区・ビルゼイト大学地域保健研究所を共同研究機関として研究を開始した。研究計画の具体的な内容の検討、倫理審査手続き、パレスチナ自治政府教育省・国連パレスチナ難民救援機関(UNRWA)との学校を拠点とした研究に関する手続きを終えた。調査対象学校の選定、対象校におけるインタビュー調査も実施した。ヘルスリテラシー尺度の開発や紛争の影響に関する質問項目についても検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に、学校を拠点とする調査について所轄機関の了承が得られたので、対象校を決定することができた。調査対象校については、パレスチナ自治政府教育省が管轄する公立学校4校(都市部:男子学校1校・女子学校1校)、私立共学校1校を選定した。 選定された対象7校において、生徒〈12歳~15歳)、教師、保護者の代表を対象にインタビュー調査を実施した。インタビュ-調査結果は、現在、データの文章化及びアラビア語ー英語翻訳が終了し、質的手法を用いて分析を進めている。ヘルスリテラシーに関してはヘルスリテラシー尺度に基いた文献レビューを実施し、対象年齢・研究目的に適合する尺度の開発を進めた。紛争の影響に関しての質問項目や尺度については、ビルゼイト大学が先行研究で用いたことのある信頼性及び妥当性がある尺度について、本研究の対象・目的に適合するかどうかの検討した。平成28年度中に得られたインタビュー調査データの内容を精査すると共に、得られた情報をもとに、尺度の開発を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、調査地における(パレスチナ自治区、ラマッラー県)対象学校7校(公立学校4校;都市部:男子学校1校・女子学校1校、村落部:男子学校1校・女子学校1校、UNRWA学校2校:男子学校1校・:女子学校1校の対象者〈12~15歳、n=1,100)にたいして、栄養調査(身長・体重・BMI)、紛争の影響及びヘルスリテラシーに関しての聞き取り形式でのアンケート調査を実施する予定である。5月にパイロット調査を実施し、11月に本調査を予定している。パレスチナの新学年は9月に開始することを考慮し、また食生活に大きな影響がある断食月と犠牲祭を外して、調査時期を設定している。 調査によって得られる個人データは基本的に個人の特定はできない。ただし、紛争による影響について専門家による心理的サポートが必要とされるケースが発生した場合は、現地の専門家と連携して対応策を講じる。 データ収集後、データ入力、量的データ分析を実施し、共同研究者により結果を議論し論文にまとめていく。なお、量的調査の結果を鑑み、より詳細な内容を検討していくために追加での質的調査の実施について検討する。
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Causes of Carryover |
現地の共同研究機関と検討の結果、実情に合わせて研究方法についての調整をした。 初年度である平成28年度に質的研究分析ソフトNvivoの購入予定にしていたが、現地研究者と共同で使える分析ソフトについて検討が必要になったため購入を見送った。 また、日本人研究補助者の雇用を予定していたが、現地共同研究者によって担える部分が増えたため、日本人研究補助者にかかる支出が削減された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、学校を拠点としたアンケート調査・栄養調査を計画している。平成28年度に、対象学校の選定や対象校でのインタビュー調査を実施した結果、当初予算よりも平成29年度に予定の調査にかかる費用が増額することが判明したため、その調査費用に充てる。 また、質的研究分析ソフトについては、現地共同研究者と共同での使用が可能であることを確認したうえで購入を再検討する。
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