2016 Fiscal Year Research-status Report
理論・実験双方向分子設計に基づく高次集積型精密合成プロセスの創成
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16KT0051
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山本 芳彦 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (60283412)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | ルテニウム触媒 / DFT計算 / 反応機構 / アルキン / 環化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
ルテニウム錯体を触媒とするα,ωージイン類の環化反応を種々検討した結果、以下の新規反応を開発することに成功した。 (1)カチオン性ルテニウム錯体を触媒とし、硫黄原子移動型[2+2+1]環化付加反応を開発した。様々な硫黄源をスクリーニングしたところ、ベンゾオキサゾール-2-チオンが良好な結果を与えた。とくに、N-(p-クロロ)ベンジル誘導体が最も活性が高く、これを最適な硫黄源に選定した。その結果、広範囲の1,6-および1,7-ジインから対応する縮環チオフェンを合成することに成功した。反応機構の詳細は不明であるが、水分子の関与を示唆する結果を得ている。 (2)カチオン性ルテニウム錯体の存在下、末端にフェニル基を有する1,6-ジインと溶媒として用いたDMFが反応し、ヒドロカルバモイル化環化することにより、環外ジエン型のジエニルアミドが得られることを見出した。さらに、適量の水を添加するとジオキサン溶媒中、3~10当量のホルムアミドを用いても反応が進行した。そのため、N-アリル-N-メチルホルムアミドとジインの反応が可能となり、ヒドロカルバモイル化環化反応と分子内Diels-Alder反応がタンデム型に進行し、三環性ラクタムが得られた。種々の検証実験とDFT計算を実施した結果、ルテニウムヒドリド錯体に対しジインが酸化的環化してルテナサイクルを生じ、すぐさま還元脱離した後、DMFの挿入、βーヒドリド脱離する機構が最もらしいことがわかった。 (3)スチレン末端を有する1,6-ジインが、中性ルテニウム錯体存在下に環化異性化して、インデニリデン誘導体を与えることを見出した。DFT計算を用いた解析により、ルテナサイクル中間体にアルケンが交差型挿入する前例のない機構で進行することが示唆された。同基質に対しカチオン性ルテニウム錯体を作用させると、[2+2+2]環が進行することも確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本計画の目的は、実験と計算化学を双方向に実施して新規な触媒反応を開発するとともに、触媒反応を核として複数の反応を集積化した新規合成プロセスを開拓することにある。 本年度は、(1)カチオン性ルテニウム触媒とチオカルボニル化合物を組み合わせたジインの硫黄原子移動型[2+2+1]環化反応による縮環チオフェン合成、(2)カチオン性ルテニウム触媒による1,6-ジインとホルムアミドのヒドロカルバモイル化環化反応、および、(3)中性ルテニウム触媒を用いるスチレン末端1,6-ジインの環化反応の、3種の新規ルテニウム触媒反応を開発することに成功した。また、これら反応の機構をDFT計算により解析し、前例のない機構を提唱するとともに、さらなる反応効率の改善にフィードバックしている。さらに、得られた環外ジエン型生成物のDiels-Alder反応を検討することにより、一挙に複雑な多縮環骨格を構築することにも成功している。 また最近、中性ルテニウム錯体に変えてカチオン性ルテニウム錯体を触媒として用いてスチレン末端1,6-ジインの環化反応を検討した結果、分子内[2+2+2]環化付加生成物であるジヒドロビフェニレンが生じることも見出し、その環拡大反応を組み合わせることにより、前例のないワンポット二工程プロセスを創出することにも成功している(論文印刷中)。 以上の様に、当初の計画は順調に進行しており、更なる研究の進展も期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果に基づき、さらなる新規反応の開発と理論計算による反応機構解明を推進する。特に、DFT計算に基づき推定された非効率な素反応段階を改良する検証実験により、反応の適用範囲の拡大、選択性の向上等が期待できるため、次年度はこのようなフィードバック検証実験を積極的に実施する。具体的には、カチオン性ルテニウム触媒による1,6-ジインとホルムアミドのヒドロカルバモイル化環化反応において、二つのアルキンを繋ぐ連結鎖上に4級あるいは3級炭素中心が存在すると、反応効率が著しく低下した。既にDFT計算により、DMFの挿入の後、βー水素脱離する段階に嵩高い連結鎖上置換基が立体的に悪影響を及ぼすことが判明している。そこで、Cp*配位子に変えてよりコンパクトなCp配位子を有するカチオン性ルテニウム錯体を用いることで、反応効率の改善を図る。 また、生理活性物質の合成に応用可能な、不斉環化触媒反応の開発に着手する。この際、DFT計算により得られる情報を活用して光学活性配位子の改良をおこなうことで、不斉収率の効率的向上を目指す。 集積化プロセスとして、分子内[2+2+2]環化反応によって生成する縮環シクロヘキサジエンの位置および立体選択的変換反応を検討し、新規性の高い環骨格構築法を開発する。その結果確立される手法を駆使し、天然生理活性物質の合成へと展開する。
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Causes of Carryover |
当初計画では、4月から翌年3月の研究期間を想定して必要経費を算出した。しかし、実際の採択が7月となり、研究の開始が予定より3カ月遅れたことが要因の一つとして上げられる。また、遷移状態計算ソフトウェア(約60万円)を購入予定であったが、そのデモ版を試用したところ思うような成果を得ることができないと判断されたため、導入を取りやめた。さらに、合成実験の効率化や、共通生の高い試薬類を用いることができたため、消耗品費の大幅な削減の結果もあり、本年度使用予定額を下回ることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度繰越額の使用用途としては、DFT 計算用ワークステーションが5年を経過したため、その買い換えを検討する。ただし、最新版Gaussianを併せて導入すべきであるため、本学のサイトライセンス更新状況をみて判断する。また、国際会議招待講演のための海外渡航費用を支出する。また、次年度に計画している不斉環化反応の開発には、高価な遷移金属や光学活性配位子、さらに、光学純度測定用のHPLC用キラルカラムの充足が不可欠であるため、これら消耗品費に当てることを計画している。
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