2016 Fiscal Year Research-status Report
pH依存活性錯合体の計算化学-ミクロ定pH法の開発から遷移状態制御へ-
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16KT0053
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長岡 正隆 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (50201679)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | pH依存活性錯合体 / ミクロ定pH-MS法 |
Outline of Annual Research Achievements |
凝集環境下における水素イオン指数(pH)変化を有効的に取り込んだシミュレーション手法(ミクロ定pH-MS法)を開発し、溶質分子の安定構造や活性錯体などの構造情報に加えて、それらの運動状態や化学的特性におけるpHに依存した特異的な変化を微視的視点から明らかにすることを目的にしている。本年度は、離散的なプロトン化状態遷移モデルに基づいたミクロ定pH-MS法の開発を行った。 本手法では、状態切り替えたのちに実行する平衡シミュレーションによる試行点探索において、系の熱揺らぎによる影響を制御するためにガウシアン型確率分布関数による事前選別手法を導入した。手法の妥当性を検証するために、グルタミン酸分子を含む水溶液系について本手法を適用した。複数のpH条件によるシミュレーション結果から、pH曲線を作成したところ、理論値を再現できた。これらの成果は第10回分子科学討論会にて研究報告を行った[学会発表1]。 酸塩基指示薬であるp-ニトロフェノールに定pH-MS法を適用した。多数のpHを変えた条件での分子シミュレーションを行い、酸性型・塩基型のpHによる存在比を予測した。それらの存在比の違いから吸収スペクトル変化を定量的な再現ができた。さらに発色機構を構造変化から検証したところ、p-ニトロフェノールの溶媒による色調変化は、水分子の相互作用に伴うニトロ基の構造変化によって説明できるのに対して、パラニトロフェノラートはそうではないことが分かった。これらの成果はJFS国際シンポジウムにて研究報告を行った[学会発表2] 従来の定pH法では、溶媒環境を誘電体モデルに近似することが行われてきたが、このような取り扱いでは、微視的な溶媒和構造を無視してしまう。本手法は、溶媒として全原子モデルを使用することが可能であり、溶媒の配向性やエンタルピー変化などの微視的な溶媒効果を考慮することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書において、本年度で実施することになっていた理論開発はほぼ完了した。また、平成29年度以降に予定していた有機色素発色機構の解明について、本年度において順調に進捗したことで、計画以上の進展が見られる点もあった。全体を通じて、本研究課題の初年度での研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の初年度において、理論開発がほぼ完了した。これまで本手法を適用した事例は、実験において酸解離定数が報告されているモデル系であり、それらのpHに依存したプロトン化状態の存在比および物性が再現できることが示された。今後、本手法の汎用性を示すために、複数の滴定可能サイトを含む複合的な系に対して適用することを計画している。これは最終年度での酵素反応系におけるpH依存性の解明と遷移状態制御の確立に向けた研究に対して密接に関連すると考えている。
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Causes of Carryover |
当初、博士研究員の新規雇用を9月から計画していたが、適任者を決めるのに時間を要し、12月からとなったため、人件費を当初計画通りに執行できなかった。博士研究員の雇用の遅れに伴って、調達予定であったマルチCPUサーバーシステムの購入も再検討する必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H29年度に、改めてマルチCPUサーバーシステムの調達について、博士研究員と検討して、研究遂行上最適なシステムを購入する予定である。
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Research Products
(2 results)