2017 Fiscal Year Research-status Report
複雑生体分子複合系の状態遷移経路の探索と制御に関する理論研究
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16KT0054
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高田 彰二 京都大学, 理学研究科, 教授 (60304086)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 計算生物物理 / 生体分子シミュレーション / 遷移経路探索 / マルコフ状態モデリング / ヌクレオソームスライディング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、大自由度が関わる生体分子複合体の大規模構造変化において、1)その状態変化を記述できる遷移経路の探索アルゴリズムの開発・実装を行い、それを具体的な細胞生物学的課題のいくつかに適用し、それによって、状態変化の遷移状態を制御する方法を明らかにすることである。 今年度は、昨年度に引き続き、熱揺らぎによる自発的ヌクレオソームスライディング過程について、マルコフ状態モデルの枠組みで遷移経路解析を行った。昨年度解析した単純2塩基周期繰り返しDNA配列の場合を踏まえて、今年度は、ヌクレオソーム親和性が高い601配列についてのマルコフ状態モデリングに進んだ。単純繰り返しDNA配列の場合には2塩基対を周期にもつ比較的少ない状態数のマルコフ状態モデリングが可能であったのに対して、601配列の場合には10塩基対スライディングを(近似的な)周期とみなす必要がある。この場合、単純繰り返し配列の場合に実施したDNA1巻き(約10塩基対分)ごとに分離した解析は複雑すぎるため、支配的な運動をする中心部分(Dyad付近)のスライディングに限定した。10塩基対スライディングの種々の中間状態から始める短時間分子動力学シミュレーションを多数回行い、クラスタリングの後、マルコフ状態モデルを構築することができた。これにより、601配列の10塩基対スライディングの自由エネルギープロファイルおよび、スライディング運動の時間スケールを見積もることに成功した(Brandani et al, NAR 2017)。 さらに、ATP加水分解によって働くリモデラーによるヌクレオソームスライディング過程の遷移経路解析を進めている。上記と類似のマルコフ状態モデリングによってATP駆動のスライディング過程の遷移経路が明らかになってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヌクレオソームスライディング過程の状態遷移経路解析については、マルコフ状態モデリングが当初の予想以上に強力で、有効であることが分かった。結果として、この方法によって、ヌクレオソームスライディング過程についての様々な現象を明らかにすることに成功した。この点は、想定以上の進捗である。 同時に、マルコフ状態モデリングが非常に有効であるために、代替法であるストリング法の解析は、当初の想定より遅れている。ストリング法が有効でないということではなく、研究者のエフォートがマルコフ状態モデリングに割かれたことによるものである。 したがって、当初の計画とやや異なる方向に進んでいるものの、総じて、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
さらに、ATP加水分解によって働くリモデラーによるヌクレオソームスライディング過程の遷移経路解析を進めていく。注目は、遷移状態の自由エネルギー障壁を決める因子として、これまでにまったく考察されてこなかった、巻き数欠損のエネルギーコストが本質的な役割を担うという点である。この機構によると従来不思議に思われていた実験データを自然に説明できるであろう:poly-A配列はヌクレオソームを不安定にする配列であるにもかかわらず、スライディングを遅らせる、という一見すると直感に反する振る舞いが観察されていた。我々の計算によるとPoly-A配列は、ヌクレオソーム安定性は低いが、同時に巻き数欠損のエネルギーコストは高い。これで、実験データを自然に説明できることになる。 もう一つのケーススタディとして計画している膜融合過程について、シミュレーションに用いる膜モデルがようやく完成し、今後、具体的な計算に入っていく段階になる。 また、自発的なヌクレオソームスライディング過程について、有限温度ストリング法による、より詳細な経路解析を実現させる。
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Research Products
(9 results)