2016 Fiscal Year Research-status Report
サーキュラー・マイグレーションの研究―EUの政策と帰還後の移民の調査・分析
Project/Area Number |
16KT0090
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
中坂 恵美子 広島大学, 社会科学研究科, 教授 (20284127)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 利夫 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40304365)
長坂 格 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (60314449)
佐藤 以久子 桜美林大学, 法学・政治学系, 准教授 (80365056)
岡部 みどり 上智大学, 法学部, 教授 (80453603)
片柳 真理 広島大学, 国際協力研究科, 教授 (80737677)
鈴木 一敏 広島大学, 社会科学研究科, 准教授 (90550963)
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Project Period (FY) |
2016-07-19 – 2019-03-31
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Keywords | 難民の帰還 / 循環移民 / EU / 南アフリカの移民政策 / エクアドル移民 / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
2月に広島大学で研究会を開催し、各自の研究状況の報告、研究の進め方や目標を確認した。同研究会では、それぞれの学問分野における移民研究の動向や担当地域における移民問題について報告に基づいた議論が行われ、他の分野の人へ研究事項のリクエストなども出された。 本年度実施した海外調査は次の三地域である。第一に、中南米(担当:青木)については、ラテンアメリカ社会科学研究所(キト)等において調査を行い、とりわけ、南米諸国の中で最も多くの移民をヨーロッパに出している国であるエクアドルについて、同国の移民が1990年代以降米国からスペインへ移行した要因と、近年の帰還政策を生み出した要因について明らかにすることができた。第二にアフリカ(担当:片柳)については、経済的に発展しており周辺諸国からの移民受け入れ国となっている南アフリカで、移民政策、外国人排斥運動などに関する調査をおこなうため、プレトリア大学、ウィットウォーターズランド大学、UNHCR、IOM、Lawyers for Human Rightsへの訪問を実施した。その結果、南アフリカの移民政策に関する評価は、専門家及び専門機関の間でも多様であること、サーキューラー・マイグレーションの議論はあまり盛んではないことがわかった。第三に、ヨーロッパ(担当:中坂)については、EUの政策について調査をするために、ブリュッセルのEU委員会図書館において文献調査を行い、さらにに、EU委員会Charlemagne buildingで開催されたOdysseus Academic Network Annual Conference:Beyond 'Crisis'? The State of Immigration and Asylum Law and Policy in the EUに参加し、共通庇護制度の現在の改正などに関する情報収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、移住労働者や(避)難民などが受入国で定住するのではなく数年後に出身国に帰国する、あるいは移住と帰国を繰り返すような人の流れの在り方について調査し、持続可能な移民の可能性を検討することである。このため、複数の地域を対象として調査を実施するが、このうちのヨーロッパについては、現在までに先行研究並びに国家レベル及びEUレベルの政策の動向について、担当者がそれぞれに現地調査並びに文献やインターネットを用いた調査を行い、これまでのサーキュラー・マイグレーションについての議論と近年の新しい動向についての情報収集ができた。これまでの議論は決して多くはないことも明らかになったが、近年の動きには変化が見られ、特にドイツでは帰還政策が進められていることもわかった。さらに、本年度は、これまでにあまり先行業績のないアフリカおよび中南米についての現地調査を実施したことによって、これらの地域に関する研究を今後どのように進めるべきか考えるための材料を得ることができた。具体的には、南アフリカではこれまではサーキュラー・マイグレーションの議論はあまり盛んではなかったが、近年排外主義的な動きが急速に拡大していることを確認することができ、それとの関係で今後の政策の変化に注目する必要があると言える。また、エクアドルでは政府が複数の帰国奨励政策を行っていることがわかったので、それらの詳細や効果についての調査という課題が明らかになった。 当初の計画との唯一の変更点として、アジア地域に関する調査も初年度に行う予定であったがこれが実施できなかったことがあげられる。担当者の他地域への海外出張及び海外研修の遂行のため不可能となったのが理由であり、次年度以降帰国後に実施することと予定を変更した。しかし、フィリピンにおける政府機関について調査などを文献調査で進めており、大きな問題となる遅れはないと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の海外調査を行ったアフリカおよび中南米の両地域に関しては、日本にはあまり情報がなく今回の現地調査により研究遂行のための情報や文献を得ることができたため、次年度は文献調査を中心として研究を進めていく。 次年度の海外調査は、南米のブラジル、アジア及びヨーロッパで予定をしている。南米に関しては、日本から帰還した日系ブラジル人の状況の調査を実施するため、本年度、鈴木・中坂が、サンパウロ大学の二宮教授と広島大学にて打ち合わせを行い、現地での協力の見込みを得ている。また、3年目に、日本における外国人労働者を対象とする調査を予定しているため、その準備のための情報収集も現地では行う。ヨーロッパに関しては、引き続きEUの移民政策・庇護政策全般についての調査(担当:中坂)を進める以外に、本年度はEUの帰還政策と周辺諸国との対外的関係の調査(担当:岡部)、スウェーデンを中心とした第三国定住及びリロケーション対象者への教育及び訓練(担当:佐藤)、近年ドイツが進めている難民等の帰還政策(担当:久保山・研究協力者)という個別の問題にも重点をおいて、現在の状況を把握するために海外現地調査を行う。近年、移民及び庇護の分野でのEU及び加盟国の政策立案や機構改革の動きは非常に早く複雑化しているため、現地調査では、各担当者が、EU機関及び各国の政府機関、研究者、NGOなどを対象として広く情報を収集することを努める。次年度の終わりには、各自の研究成果をもちより研究会を行い、それまでの研究で明らかにできたことと、3年目に補足的な調査が必要な事項を確認する。なお、アジア地域について、フィリピンに帰国した移民についての調査及びフィリピンの政府機関への調査(長坂)を行う予定であるが、担当者が現在別の地域にて在外研修中であるため、2年目又は3年目のどちらかで行う。3年目には、日本における移民の調査も実施する。
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Causes of Carryover |
当初本年度に実施する予定であった海外調査のうち、一地域に関しては実施できなかったが、それは特設分野研究である本研究課題の採択は7月の終りであったため、夏期に海外調査を実施することはできず、春期には担当者が他の地域に別の調査に行かなければなならなかったためである。また、物品費によって購入する書籍に関しては、必要なものの検討の時間をとるために、一部次年度以降に繰り越しての使用を行うこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度できなかった海外調査については、2年目以降に行う予定である。物品費に関しても繰り越した分を2年目以降に使用することに問題はない。
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